最強男子はあの子に甘い
「井原さんに、紗宇のこと家まで送れって言われた」

 呼び出されていた永田くんが私たちの元へと戻って来ると伝言みたいにそう告げる。
 
「どうして……?」

 突然の彗くんからの指示を不思議に思って聞き返すと、永田くんは首の後ろを手で撫でながら珍しく落ち着いた声で答えた。
 
「ケンカ売って来るような他校の奴らが、最近この辺うろついてるらしくてさ。危ないからって」

 彗くんが心配してくれるのは素直に嬉しかった。
 でもそれはきっと私が女だからだろう。
 そんなことわかっていたはずなのに、彼が私のことを覚えていてくれたと知ってから、それだけじゃない気持ちがあったらいいのにと探している気がする。見つかるわけもないのに。
 
「井原さんは自分が紗宇のこと送って行きたそうだったけど!」
「……永田くんでいいや」
「“永田くんがいい”だろ!?なんだよ……井原さんと紗宇はお互いのこと気にしてんのになんかめんどくせぇーことしてねぇ?」
「そういうんじゃないよ」
「じゃあどう……いや、まあもういい!ってことで帰るぞ紗宇!」
「紗宇ちゃん、また明日ね!」

 帰り支度を急かされてあわててカバンを持つ。
 先を行く永田くんを追いかけようとすると、湯川くんが笑顔で手を振ってくれた。
 手を振り返して教室を出た永田くんに追いつけば、彼は少しづつ私に歩幅を合わせようとしてくれる。
< 32 / 104 >

この作品をシェア

pagetop