最強男子はあの子に甘い
「……どうして訊き直すんですか？」
「榎本さんを傷つけたかもしれないと、彗さんが思い悩んでいるので」

　乙部さんからすっと笑みが消える。
　思い悩む彗くんのそばで、乙部さんが思い悩んでいるようにも見えた。
　彗くんは何も悪くないのに、どうしたら私を傷つけたかもしれないなんて悩めるのだろう。
　やっぱりとても優しいひとなのだ。
　それしか答えは思い浮かばない。

「まあ、僕はただの恋わずらいだと思うんですけどね」

　乙部さんは乙部さんなりの解答を後出しみたいに私に囁くと、またふっと笑顔に戻る。

「恋人がいて恋わずらい、ですか……？」
「恋人？彗さんに？」
「……え？……いますよね？」
「え？いるんですか？」

　何でも知ってそうな乙部さんに聞き返されて、やっぱり姫とのお付き合いは超機密事項なのかと戸惑う。
　乙部さんが宙を見上げて、恋人とは何のことだかと言いたげに首をかしげた。

「あの……彗くんと姫は、仲良し……ですよ、ね？」
「姫？ああ、小坂さん。会ったんですか？嫌われたでしょう？」

　乙部さんにそれとなく質問すると、よく当たる占い師にズバリ言い当てられた気分とでも言おうか。
　あなたが姫に嫌われたのは必然ですよと言われたも同然に聞こえた。
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