最強男子はあの子に甘い
「……紗宇には嫌われたかと思ってた」

 彗くんがほっとしたように息を吐く。
 私のことを傷つけたかもしれない、そう思い悩んでいるようだと乙部さんの言葉をふと思い出した。
 
「……嫌いになんて、なれないです」
「でも何か嫌な思いさせたなら、紗宇にちゃんと謝りたい」
「わ、私のほうこそ彗くんに、そんなに心配させるようなこと……何しちゃったかなって……」

 彗くんが優しくて、優しすぎて。
 泣き出しそうになるのを堪え、私はきゅっと唇を噛んだ。
 気づいた彗くんが戸惑いながら「あ……」と小さく零し、頭を撫でてくれた手で、私を自分の胸元に引き寄せる。

「……ごめん。屋上で会った日の放課後に目……逸らされた気がしたから」

 そうだ。騒動が起こりはじめたあの日。
 一年の教室に来て永田くんと会話をしていた彗くんと目が合ったのに、私は屋上で姫と彗くんの仲を勘違いして勝手に傷つき、あからさまに目を逸らしてしまった。
 そのときのことを彗くんはずっと気にかけていたのだ。
 謝るべきなのは私のほうだ。なのに――。
< 48 / 104 >

この作品をシェア

pagetop