最強男子はあの子に甘い
 教室に戻ると幸せの余韻でぽわんとしたまま席に着いた。
 永田くんと湯川くんに何度か声をかけられた気がするけれど、耳には入ってこない。
 授業中も頬杖をつき私は彗くんのことばかり思い出す。

 ぎゅっと抱きしめられ、優しく頭を撫でられたこと。
 おでこだけじゃなく、耳や頬、目元にと、たくさんの優しいキスを落とされたこと。
 唇にこそ触れなかった彼の柔らかい唇やぬくもりを思い出してはドキドキが止まらない。

「紗宇ー……?紗宇ちゃーん……?」

 どこか遠くから名前を呼ばれている気がしてはっとすると、永田くんが呆れ顔で私の顔を覗き込んでいた。
 それまで聞こえていなかった教室のざわめきも耳に届きはじめ、いつの間にか一日の授業を終えていたのだと気づく。
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