最強男子はあの子に甘い
「え……あ、ごめん。ぼうっとしてた」
「っんとだよ。屋上から帰って来てからぼけーっとして、井原さんにあまーいキスでもされたか?」
「し、してない!」

 唇には、と出かかった言葉をあわてて飲み込みながら、首を横にブンブン振った。
 永田くんは意外に鋭いところがあるから油断出来ない。

「でも前と違って落ち込んでる感じじゃねぇし、いいことあったんだろ?」
「うぅーん……どうか、なぁ……」

 にやにやと永田くんに訊ねられて、私は帰り支度をしながら言葉を濁した。

「紗宇、隠し事ヘタだな」
「何があったか訊くのは野暮だよ、永田くん」

 永田くんが私の隠し事の下手さに呆れを通り越しもはや感心しているそばで、いつも通りにフォローしてくれる湯川くんはブレることのない優しさであふれている。
 しかし、二人がなんとなく屋上で私にいいことがあったのだと察しているのを感じ、これ以上ボロを出す前にと、私は二人に「また明日!」と挨拶をして逃げるように下校した。
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