最強男子はあの子に甘い
 学校からの帰り道は気を抜くととにかく顔がふにゃふにゃになる。
 いかにも『いいことがありました!私は幸せです!』とにやけてしまうのだ。
 教室でこの顔にならなかった自分を褒めてあげたい。
 ……いや、永田くんと湯川くんには“いいことがあった”とはバレていたわけだけど。

『他校を黙らせたあと、またこうして紗宇に触れさせて?』

 屋上で私を愛でた彗くんが、別れ際に甘い声で耳元に囁いた。
 そのときのセリフが何度も彼の息遣いとともに耳元に蘇って来るような感覚に、ひとり顔を赤らめる。
 熱を冷ますべく電柱に頭を打ちつけたいくらいには舞い上がっていて、地に足がつかないとはこういうことかもしれない。
 
「……ただいまー」

 家に帰り着くと撃たれたみたいに玄関マットの上に倒れ込む。
 彗くんとじゃれ合っていたことを思い出すだけで、幸せすぎて胸が苦しい。

「何やってるの紗宇?」

 玄関マットの上で悶える娘を見つけた母親は冷静に訊ねる。
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