最強男子はあの子に甘い
 姫はツーンとその男に対して思いきりそっぽを向いた。
 私も見習うように遅れてそっぽを向く。
 しかしそっぽを向きながらも目が泳いでしまう。
 そんな私を怪しむように、にやつき男が私の顔をまじまじと見つめてきた。

「えぇ?まさかお前が井原の女ぁ?いやまあ、そこそこかわいくはあるけど……」
 
 どこかで聞いたことのある評価である。
 女子をさらい囲んで、彗くんを呼び出すような連中の中の一人だ。
 見た目において高評価をもらっても嬉しくはないが、そこそこという見下し方もどうも癇に障る。
 けれどここで私がちょっとやそっと暴れたところで、さすがに六人のヤンキー相手に勝算はない。姫もいる。

「あーでも俺はタイプ」

 そう言って六人の中で一番背の高い男に顔を寄せられた。
 じりと砂を踏み、私は半歩後ずさる。
 気に入られてしまうなんて怖い。気持ちが悪い。
 クズみたいなやり方で桜辰にケンカを売り、暗黙のルールを破るような男たちには嫌悪感しか抱けないのだ。
 なのに懲りずに背の高い男はもう一度顔を寄せようとしてくる。
 そんな私と男の顔の間にヒュンッと勢いよく石が飛んできた。
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