最強男子はあの子に甘い
「あっぶねぇーなぁ!」

 鼻をかすりそうなほど、私よりも男の近くを飛んでいった石が地面に落ちるのと同時に、男は怒って大きな声をあげる。

「今のは忠告だ。それ以上近づくな」
 
 石が飛んで来たほうを見ると、彗くんが腕組みして立っている。
 私と姫を囲んでいた六人が一斉に彗くんに対して身構えた。
 六対一でも卑怯なのに、背の高い男は私の肩を掴むと折りたたみ式ナイフを開いて突きつけてくる。
 
(え……?)

 完全に彗くんに対する脅しだ。
 でもさすがにこれには私も恐怖を感じる。
 相手がクズだとわかっている分、何をされるかわからない。
 それを見た彗くんも腕組みを解くと、珍しく顔をしかめた。

「やっ……!」

 隣では私と同じように、にやつき男が姫に対してナイフを突きつける姿があった。
 姫がいやいやと首を振って怯えている。

「土下座しろよ、井原。桜辰トップは降りてもらう」

 恐らくはこの騒動の中心人物の一人だろう。
 六人の中では唯一、雰囲気のあるヤンキーが彗くんに告げる。

「何がしたいんだよ?」
「つまんねぇんだよ!お前らが正義ぶってるせいで!何もかもがよ!流儀だのルールだのもううんざりだ!」
「じゃあ来いよ、負けたら土下座でもなんでもしてやる」

 彗くんが指先を上に向けた手で、ケンカに誘うよう手招きした。
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