最強男子はあの子に甘い
 突然、三人の中の誰のものでもないかわいらしい声が聞こえ、同時に細くてきれいな指先が山になったお菓子のひとつを指差した。
 びっくりして顔を上げると、湯川くんにぴったりくっつくように、桜辰の姫がいる。

「蜜姫!」
「えへへ……たけるくんと一緒にお昼食べようと思って、来ちゃった!」
「“来ちゃった”じゃないですよ。一年生は一年生同士の付き合いがあるんですから、邪魔しないであげてください」

 さらにもうひとつ声が増え、振り返ると乙部さんの姿があった。
 
「えー……そう言う乙部くんは何しに来たの?」
「小坂さんが浮かれながらお弁当持って歩く姿を見かけまして、こんなことだろうと」
「乙部くんだってお弁当持ってるのはどういうことですかぁ?」
「僕は昼休みだけ特別屋上への立ち入りを許されているので、屋上でお昼を食べる前に小坂さんへ小言を言いに」

 姫は美しい顔を思いきりしかめて乙部さんを見ている。
 彼女の顔には『大嫌い』と書かれてあるように見えた。
 乙部さんの笑顔にも『僕もです』と応戦する文字が貼り付いているようだ。
 交わす言葉からも互いが気に入らないことは伝わってくるのだが、会話が途切れても二人の間にはバチバチと火花が散っている。
 しかし姫がパッと笑顔になり、大きく一度手を叩いてケンカの火種を無理やりかき消した。

「じゃあ!今日はみんなで屋上行ってお昼食べよ?乙部くんが誘ってくれたってことで!」
「何を言い出すんですか……」
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