最強男子はあの子に甘い
「お騒がせしてます……」
「紗宇が言い出したんじゃないんだろ？」
「あぁ……えーと……でも、楽しそうだなって思ったのは私もで」
「ならいいよ」
　
　彗くんはそう言って微笑み、私の背中をそっと押す。
　彼と一緒にゆっくりとみんなの輪に近づいて行くと、広げられたお菓子から甘い匂いがそよ風に運ばれて来た。
　
「彗くん聞いてよ！私がたけるくんと一緒にお昼食べようとしたら、乙部くんが邪魔して来たの！」
「蜜姫は、たけると学校では距離置くんじゃなかったの？」

　彗くんが腰を下ろし、広げられたお菓子をひとつつまみながら、優しく姫に訊き返す。
　
「それは……入学したばかりの一年生が学校に馴染むまでは、すぐケンカになるし……たけるくんが目立たないようにって思って……」
「あーそういうことかぁ。でもそういう理由なら、たけるも紗宇には姫が彼女だってこと、こっそり教えても良かったんじゃねぇの？」

　もぐもぐと惣菜パンに食らいつく永田くんが姫の言葉に反応した。

「うーん……僕、言ったつもりになってたからなぁ。ごめんね、紗宇ちゃん」
「ううん。ちょっとびっくりしただけ」
「はは！井原さんと姫が仲いいこと知ってから、紗宇はこの世の終わりみたいに落ち込んでたけどな」
「ふふっ……恋人だと思ってましたからね」

　永田くんと乙部さんが私との会話を思い出すように笑っている。
　……穴があったら今すぐ入りたい。埋めて欲しい。
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