最強男子はあの子に甘い
「……乙部さんはどうして教えてくれなかったんですか?」
「榎本さんが湯川くんから聞いてないようだったので、それを僕の口から言っていいものかわかりませんから」

 確かに、乙部さんの判断は正しくてぐうの音も出ない。
 落ち込む私に姫が顔を近づけて「乙部くんて性格悪いから!」とささやいた。

「小坂さんには負けますけどね」

 聞こえてますよとばかりに乙部さんがすぐさま姫へと言い返す。
 二人は仲が悪いように見えて、いやしかし意外に悪くないようにも見えた。

「乙部くん絶対モテないでしょ!?」
「いえ、女子が寄って来るのがわずらわしくて桜辰に来たようなものなので」

 乙部さんの返しに姫が悔しそうに黙り、聞いていた私たち一年生組は妙に納得した表情を浮かべる。
 姫への対応は塩にしか見えないけど、きっと寄って来る女子をわずらわしく思っても顔に出さず、丁寧に接する乙部さんが容易に想像出来たからだ。
 そんな乙部さんは確かに、さぞモテるだろう。

「乙部さんは成績も優秀なのに、桜辰への進学は反対されなかったんですか?」

 湯川くんが手を上げて、乙部さんに質問した。
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