最強男子はあの子に甘い
 後片付けを済ませて屋上を後にする。
 先に階段を下りていた姫が、立ち止まって私のほうを振り返った。
 みんなが先に教室へと帰って行ったのを確認してから、じっと私を見つめたまま。

「ごめんね、紗宇ちゃん。初めて屋上で会った日、私……態度悪くて」
「いえ!わ、私も……思えば挨拶らしい挨拶もしてなかったなって」

 あわてて階段を下りて姫と目線を合わせると、彼女は優しく笑ってくれた。

「たけるくんと紗宇ちゃんが仲良しだから、嫉妬しちゃったの……私、嫉妬するのもされるのすごく嫌なの知ってたはずなのに」
「……私も、彗くんと姫が仲良しに見えて嫉妬してました」
「私はたけるくん一筋だから!彗くんとは何も!」
「私も!湯川くんとはお友達です!」

 お互いに潔白をアピールし合えば自然にどちらともなくふっと笑いが零れた。

「授業はじまるぞ?」

 柱の影からひょいっと顔を覗かせた彗くんが、私たちに声をかける。

「もー!彗くん聞いてたでしょ!」
「良かったな、蜜姫。友達出来て」

 恥ずかしそうに彗くんへ文句を言った姫は、彼の何気ない言葉ひとつでたちまち不安そうに私を見る。

「紗宇と仲良く出来るだろ?」
「……する!仲良くする!仲良くしたい!」
 
 そう言って私の手を両手で包んで握手するみたいにぶんぶん振ると、姫は恥ずかしそうに駆け足で去って行った。
 彗くんは満足げに微笑んで私に手を振る。
 私は姫のぬくもりが残る手で彗くんに手を振り返し、私たちはそれぞれの教室へとつま先を向けた。
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