最強男子はあの子に甘い
「前に屋上で紗宇にお願いしたこと覚えてる?」

 試すみたいにそう問いかけられた私は記憶を辿る。
 彗くんと気持ちが通じ合った日。
 あの日も彼は私の恋心を、たくさんのキスと言葉でくすぐった。

『他校を黙らせたあと、またこうして紗宇に触れさせて?』

 すぐに思い出せてしまうくらいには忘れられない。
 あのときの彗くんのぬくもりだとか、自分の心臓の高鳴りも、くすぐったい気持ちだって。
 きれいに思い出せる。

 彗くんは抱きしめる腕の力を緩めて、私の顔を覗いた。
 私はどんな顔をして彗くんを見ればいいのかわからない。
 今、彼に瞳を見つめられたら心臓が爆発しそうだ。
 
 恥ずかしくて伏せた目元に、ちゅっとキスをされるとびっくりして瞳に彼を映してしまう。
 目が合うと満足そうに微笑む彗くんには、どんな小さな抵抗もきっと敵わない。

 そっと、彼の指先が私の唇に触れる。
 次にキスする場所を示すように。
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