最強男子はあの子に甘い
「これで、誰も来ないよ」

 鍵をかけた扉に寄りかかって、私に優しく告げる。
 彗くんは優しい。
 でも今は、扉へ鍵をかけた上に、唯一の逃げ道をも自分で塞いで私を屋上へと閉じ込めたようなものだ。
 けれどそんな、ほんのちょっとの彼の意地悪も、私をドキドキさせるスパイスになってしまう。

「俺はキスしたいくらい紗宇のこと好きだけど、キスさせてもらえなくても紗宇のこと嫌いになったりしないから」
「キ、キスしたいです!」

 彗くんの優しい言葉に対して慌てたように本音をこぼすと、何を言ってしまったものかとポカンと口が開いたまま。
 熱くなっていく顔をどうすることも出来ず、目を泳がせるばかりの私に、彗くんは両手を広げた。

 「じゃあ、キスさせて?」

 誘うように彗くんが広げた両腕の中へと私はゆっくり歩み寄る。
 彼の手が私へ届く距離になれば、そっと手を引かれ胸元へと引き寄せ抱かれた。
 すぐに頬に大きな手が触れて、顔を上へと向かされると彗くんの唇があっという間に私の唇に重なる。
 
 時も、音も、止まったかと思った。
 触れ合った唇のぬくもりだけが、世界のすべてのように感じる。

 触れた唇がすっと離れて、でもすぐにまた重なって。
 彗くんは、そうして何度も私に優しく口づけた。
< 87 / 104 >

この作品をシェア

pagetop