最強男子はあの子に甘い
「完全に腕試し。入学式の圭音みたいに、当時三年のトップに突っかかってってやり合ったら……俺は勝っちゃったんだよな……」
「勝っちゃった……?勝ちたくなかったの……?」
「……追い越せない背中を追いつづけることに憧れてたっていうか。誰かについていきたかった。幼かったんだと思う」

 彗くんは一年生のときの自分を思い出しながらそう呟いた。
 今はもうすっかり桜辰のトップとしてその背中を、周囲に追いかけられるひとだ。
 そして簡単にはその背中に触れることすら許さない。
 だから誰かについていく彗くんなんて、私には上手く想像出来なくて。
 彼はてっきり人を引っ張っていくことも得意なひとなのだと思い込んでいた。
 でも、本当はそうじゃないのかもしれない。

「いきなり目指すところがなくなって、毎日つまんなくて。……でもそんなとき、たまたま蜜姫とたけるが絡まれてるの見かけて、憂さ晴らしのつもりで助けたらなんか二人に懐かれてさ」
「あ……湯川くんは、そのとき彗くんと友達になったってうれしそうに教えてくれたなぁ」
「俺もうれしかった。たけると蜜姫と仲良くなれて。……俺と蜜姫は校内じゃ浮いた者同士で、その日から肩寄せ合うように仲良くなったんだけど、蜜姫は堂々と恋人がいるっていつも惚気てたから。俺たちが男と女っていう目で見られることもなくて、そのうちそんな俺らのこと周りが面白がってくれて自然と打ち解けてた」

 姫と彗くん、二人の絆は深いのだろう。
 けれどそれは今、私の中ではヤキモチじゃなくて感謝に近い。
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