最強男子はあの子に甘い
「紗宇って、実はモテる?」
「……モテた記憶はどこにもないけど?」
「でも小学生のとき、泣きはらした顔して帰って来て。確か……いじめられそうになったけど六年生の男の子が助けてくれたってこともあったじゃない?紗宇は男の子が守ってあげたい女の子に見えるのかなぁって、思って」

 まさかお母さんの記憶の片隅にまで、小学生の頃の私と彗くんがいるとは。
 そのとき助けてくれた六年生の男の子が、彗くんであることにお母さんは気づいていない。
 小学生の私から話を聞いただけで、当時の彼とは会ってもいないのだから当然だろう。

「……小学生のとき、私のこと助けてくれたのも……彗くんなんだ」
「え……?じゃあ、もう井原くんとは付き合って長いの?」
「ううん!……高校で再会して、仲良くなって。で、でもはじめはお互いに相手が自分のこと覚えてるとも思ってなくて」

 それだけ言って、あとは適当に切り上げて部屋に帰ろうと思った。
 けれどお母さんは私の肩を優しくつかむと、じっと目を見つめてくる。

「……紗宇」
「は、はい!」
「今、お茶いれるから……お母さんその話、じ~っくりゆ~っくり聞きたい!」
「はい?」

 何を言われるかと思えば、母親から娘の恋バナの催促だった。
 断ろうにもお母さんは、私の返事も聞かずにいそいそとキッチンへと向かっていく。
 キッチンを覗くと鼻歌交じりにお茶の準備とともにお菓子を用意するお母さんは、まるで自分が恋でもしているかのように浮かれていた。
 恋バナを求められた娘の私は、この浮かれた母からは逃げられそうにもない。
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