相談室のきみと、秘密の時間
「大体11月になる前には一通り頼まれた仕事は終わると思う」

「それってもう2ヶ月しかない……」

私はまだまだ村越さんに話を聞いて欲しかった。

「このまま、時間止まっちゃえばいいのにね」

村越さんは呟いた。
そうかもしれない、でもそうじゃないかもしれない。

私が俯くと、村越さんは席を立ち私の隣の席に座って目をしっかりと見つめた。

ブラインドの隙間から部屋に入る柔らかな夕日が村越さんの瞳の中にあって、まるでべっこう飴みたいに甘く艶めいていた。

「まだ僕はちゃんとここに居る」

「でも本当にカウンセラーも辞めてしまうなら、もう会えないってことなんですよね」

「そう、でもやりきるから」

私の手の上に村越さんは手を乗せた。
その手は私より大きいのに壊れそうで、でも温かい。

「じゃあ、私もちゃんとここに来ます」

「ちゃんと来てね。君の話は最初に比べてどんどん深くて、そして核心へと近づいている気がする。

きっと君が辿り着きたいところへ向かうことが出来ると思う。だからまたここで話そう」

「はい、こちらこそお願いします」

村越さんは笑った。作り物みたいだった村越さんの笑顔が少しずつ本物になっていくのが私だけには分かった。
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