相談室のきみと、秘密の時間
除雪しても雪の薄く積もった道を踏みしめるように歩きながら、母の真っ直ぐ伸びた背中を見ていた。

「お母さん、今日はありがとう」

「お母さんも良かった。ちゃんと話せる機会を持てて」

「私が今まで聞くのを拒んでいたから、お母さんを困らせてごめん」

「良いって。それより彩葉は村越さんが好きなの?」

改まって言われると、どう伝えれば良いのか分からなかった。

「村越さんは私の一生特別な人だって思う。でも私はまだどんな風にそれを伝えればいいか分からないから。自信を持てるようになったら言いたいんだ」

母は少し間を開けたあと、覚悟を持った目で伝えてきた。

「彩葉。私ね、彼のことを前にも二度見たよ」

「え……?」

「一回目は私の勤める病院で。こんな田舎だから病院って言っても基本は老人ばっかりなのに、綺麗な人だったし目に付いたわ。それにうちは総合病院だから色んな診療科があるし、どんな病気かは分からないけど」

「病院に? なんで村越さんが……」

「あともう一回、会ってる。こっちに来る飛行機の中で、彩葉、あなたあの人と会ってるよ」

「そんなはず……」

あの時、ずっと私の心にしまってきた大切な思い出。
そこに、村越さんがいた?

「何で言わないのか、お母さんは分からないけど。彩葉に隠しているのはよくないと思うから」

「違う人かもしれないよ。村越さんは知ってて言わない人じゃないし」

「うん。でも間違いないよ。本当のことは彼本人から聞いた方がいいわ」

私は母の顔を見てただ黙って頷くしかできなかった。
今の私はちっぽけかもしれないけど。それでも、村越さんの全てを知りたい。
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