相談室のきみと、秘密の時間
「村越さんの名前はなんて言うんですか」

「僕の名前は、慧悟(けいご)。君は彩に満ちた希望の世界を、僕は多分世界の真理を悟るように願って付けられた。初めて知った日からずっと真逆だなって思ってた」

「初めてって言うのは、あの日の飛行機でのことですか?」

「……お母様に聞いたのかな」

「詳しくは聞いてません。でもあの日、あの飛行機の中に村越さんも居たんですね」

「この後僕に少し付き合ってくれないかな。そこで話すから」

「どこかに行くんですか」

「ドライブはどう?」

村越さんとまた一緒に行けることが嬉しくて二つ返事で頷いた。

相談室の施錠をしてから、職員室に挨拶に行く村越さんを見送り先に玄関へ行く。職員用の駐車場を出て近くの電柱の目立たない場所に立っていた。

恐らく帰りは遅くなると思うけれど、母はきっと責めることはないだろう。

「寒いーーなのに熱いよ」

改めて背筋をピンと伸ばしてから、深呼吸をした。凍ってしまいそうなほど寒いのに、胸の奥がずっと熱くてどうしようもなかった。

もしかしたら、今私が手を伸ばせば村越さんを確かなものにできるのかもしれない。でもその僅かな予感は夢のように儚くすぐに消えた。
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