聖なる夜に贈り物
「降れば良かったのに」

私こと志田日香(しだにちか)は大学から徒歩10分のところにある下宿先のアパートの二階から星の瞬く夜空を見上げていた。

──今夜はクリスマスイブ。

窓辺から寄り添って歩いていくカップルを見るたびに、雨でも降れば良かったのにと黒いモヤモヤした感情が湧いてくる。

「はぁ。ほんと最悪のクリスマス」


三か月前まで雑然としていた部屋は寂しいほどにスッキリと片付いている。

彼が置いていたスウェットと着替えは二週間前にやっと捨てた。

二本並べて置いていた歯ブラシも今は一本にし、彼と一緒に使っていたお気に入りの枕も三日前にようやく捨てた。

「あれも早く捨てなきゃ」

そう思うのに私が唯一捨てられないのが写真だ。

「撮らなきゃ良かった……」

いや正確には印刷しなきゃ良かった。

スマホのデータは散々迷ってすでに全部消去した。でもなぜだが写真だけがいまだに捨てられない。

私は手帳からわずかにはみ出している写真を手に取ると、静かにため息を吐き出した。

そこには顔を寄せ合っている私と元恋人の彰人(あきと)が幸せそうな笑顔を見せている。


「……ほんとに好きだったのにな」
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