君のいないクリスマス
「それじゃ、お先に。お疲れ様。」


「お疲れ様でした~。」


ひとり、またひとりとオフィスから同僚たちが姿を消して行く。終業のチャイムが鳴り響いたあとのオフィスでは、ありふれたいつもの光景。しかし今日は、退勤して行く同僚たちの表情が、普段より華やいでいるように見えるのは、俺の気のせいだろうか?


「気のせいだよ。」


すると、俺の心の中を読んだような言葉が聞こえて来て、驚いてその声の方を見る。


「クリスマスにみんな、楽しい予定があるなんて、ありえない。一緒に過ごす人がみんないるなんてありえない。いたって、平日の今日に、これから会えるとは限らない。家族がいたって、クリスマスをみんなで祝い合う家庭ばかりとは限らんだろう。」


コイツ、酔ってクダ巻いてるのかと思うくらい、しょうもないことを言っている同僚の姿が目に入る。


「そうだ、クリスマスが楽しいなんて、誰が決めたんだ。なぁ、柊木(ひいらぎ)。」


そのしょうもないことに同意した他の同僚が、なぜか俺に話を振って来るから


「確かにそうだけど、そういう話はオフィスじゃないとこでやってくれよ。」


やや呆れた口調で言ってやった。


「じゃ、呑み行くか?」


「いや、俺はもう少し仕事していくよ。」


「やっぱりお前も寂しいおひとり様ということか?」


「別にひとりじゃないが、クリスマスだからと言って、やるべきことを放り出してまで、早く帰りたいとは思わないからな。」


そう答えた俺の口調が、やや尖って聞こえたのだろうか?


「もういいだろう。じゃ、我ら予定ナシオ組は、これから傷を舐め合って来ます。じゃ、お疲れ。」


最初に嘆いていた同僚が、慌てたように割って入って来て、そのまま彼を連れ出すように、オフィスを出て行く。


「ごめんね、柊木くん。彼、まだウチに来たばかりで何も知らないからさ・・・。」


すると申し訳なさそうに声を掛けて来た女子に


「いや、別に全然平気だよ。なんか、かえって悪かったね。」


俺は笑って見せる。


「ううん。じゃ、私たちもお先に失礼するね。柊木くんもあんまり無理しないでね。なんと言っても、今日はクリスマスだから。」


「ああ。さっきも言ったように、このあと予定がないわけじゃないから、適当に切り上げるよ。」


「うん、わかった。じゃ、お疲れ様。」


「お疲れ様です。」


こうして、彼女たちが出て行くと、俺はオフィスにひとりになった。


(また、みんなに気を遣わせてしまったな・・・。)


フッと1つ息を吐いた。
< 1 / 6 >

この作品をシェア

pagetop