君のいないクリスマス
俺が会社を後にしたのは、時計の針が19時を少し回った頃だった。


改めて、見渡してみれば、眩いばかりのライトアップが、街中を彩り、どこからともなく流れてくるクリスマスソング。そして、街ゆく人々の姿は、平日の夜だからか、思ったよりも少なかったが、でもやはり華やかな表情の人が多いように見える。


(俺も一昨年まではそうだったんだろうな・・・。)


去年のクリスマス・・・というか、その前後の時期の記憶が、俺にはほとんどない。1つのあまりにも悲しく、衝撃的な出来事が、全てを吹き飛ばしてしまったからだ。


俺、柊木大和(やまと)は、1年前のクリスマスを目前に控えたあの日、生涯を共にすることを誓い合った最愛の人を失った。名前は佐倉弥生(さくらやよい)


高校2年の夏から付き合い始め、以来9回ものクリスマスを一緒に過ごして来た俺たちは、10回目のクリスマスを、新婚夫婦として迎える・・・はずだった。だけど、その半年前に発覚した彼女の病が、それを許してくれなかった。


『大和くん、今まで本当にありがとう。私は・・・あなたに出会えて、あなたに愛されてとっても幸せでした。』


末期に立ち会った俺に、苦しい息の中、精一杯の言葉を遺して、弥生が息を引き取った時、クリスマスは本当にもう目の前だった。


「弥生~!」


彼女が目を閉じた瞬間、その手をずっと握りしめていた俺はその名を絶叫し、彼女の亡骸に縋り着き、彼女のご両親を始めとした周囲の人々も泣き崩れた。そして、それ以降、しばらくの間の記憶は途切れ途切れになったままだ。


そして今、華やかな街並みをひとり歩けば、弥生と過ごしたクリスマスの様々な思い出が走馬灯のように甦って来る。寄り添って見た光景、つないだ手のぬくもり、幸せそうな彼女の笑顔・・・。


お互い高校生だった初期の頃はもちろん、社会人になってからだって、特別高価なプレゼントをした覚えもないし、豪華なレストランで食事をしたわけでもない。でも、彼女は何度も言ってくれた。


「プレゼントはあれば、別に高価なものじゃなくてもいいし、なによりこうやって大和くんとふたりで一緒にクリスマスを過ごせることが、私には何よりも素敵なあなたからの贈り物だよ。」


そう言って微笑む弥生の幸せそうな表情が、瞼に甦る。


(弥生・・・。)


次の瞬間、目の前の光景が、滲んだ。
< 2 / 6 >

この作品をシェア

pagetop