君のいないクリスマス
「大和!」


俺を呼ぶ、聞き慣れた声がして、俺は慌てて、目を拭うと、その声の方を見た。


「お疲れ。」


そこには、見慣れた笑顔を浮かべた、藤堂七瀬(とうどうななせ)がいた。


「お疲れ、待ったか?」


「まぁ、ちょっと待ったかな?」


「ごめん、寒かったろう。七瀬はもう少し遅くなるだろうと思って、残業しながら時間潰してたんだけど・・・裏目ったな。」


「ううん、大丈夫。それより私の方こそごめんね。なんか無理に付き合わせて。」


「そんなことないよ。」


「でも・・・。」


「本当だ、嫌なら断ってる。別に今更、お前に気を遣うつもりないし。」


「なにぃ?」


「ごめんごめん。じゃ、とりあえず行こう。」


「そうだね。」


そう言って、俺たちは肩を並べて歩き出す。


七瀬は俺と同い年の27歳にも関わらず、大手IT総合商社「(株)プライムシステムズ」の営業課長代理を務める才女。つい最近まで、御曹司である副社長の秘書を務め、その妻に望まれたくらいの才色兼備。俺みたいな平凡、陰キャな男が本来なら、近づくのもおこがましいのだが、こうして、下の名前を当たり前のように呼び合って、親しい口をきけるのは、ひとえに実家が隣同士の幼なじみという関係性ゆえ。


他愛のない話をしながら、歩くこと15分ほど。俺たちは目的地のホテルに着いた。今日はここの眺めのいいレストランで、食事をした後は、そのままチェックインして、ロマンチックな一夜を・・・というわけではなく、我々が向かったのは地下にあるバイキングが売りのレストラン。


「さすがにお腹すいた~。」


「そうだな。遠慮しないで、じゃんじゃん食ってくれよな。」


「言われなくてもそうするよ、バイキングなんだからって、この前来た時も、同じ会話したでしょ。」


「そうだったっけ。」


このレストランには、昨年の七瀬の誕生祝いで来た。その時は当然、俺がご馳走したのだが、今日は完全割り勘で、呑んで食べて、大いにクリスマスを楽しもうという企画。


「ということで、今年はいろいろあったけど、とりあえず大和が無事にクリスマスを迎えられてよかったです。」


「その節はいろいろご心配とご迷惑をお掛けしました。」


「今日は年忘れを兼ねて、心置きなく食べて、呑みましょう。じゃ、カンパ~イ。」


「乾杯。」


そして、グラスを重ね、そして・・・ふたりして料理に突進。全然色っぽくねぇ~。
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