First Last Love
◇◇村上健司◇◇ 問題
「若松、俺からの話は済んだ。後の具体的なデジタル戦略についての詳細を続けてくれ」
月城に駆け寄り、その手を持って俺の肩に回させる。
「副社長、ひとりで医務室まで運ぶんですか? 誰か若手を」
「大丈夫だよ。みんなには会議を続けてほしい。月城さん、歩けるか?」
「は……い」
正気なのか、気を失ったまま答えているのかは不明だった。月城ひとり運ぶのなんてどうということはない。けど、ここで抱きあげるのも社員の手前、気が引ける。
形だけでも頑張って歩いてくれないだろうか。
医務室はこの第二会議室からすぐ目と鼻の先だ。
ただ、いかんせんうちの社はパウダールームと休憩室、医務室以外はガラス張り。廊下に出てから抱き上げるのも、ここから丸見えでアウトだ。
ほぼ意識のない月城をどうにか歩かせるような体を取り、医務室まで運ぶ。
まったく……。
廊下がガラス張りじゃなきゃ抱き上げて運ぶ。その方がよっぽど手っ取り早い。誰だ、こんな設計にしたのは。俺か。
ガラス張りではない医務室のドアを開けると、やっとそこで俺は月城を横抱きに抱え上げた。