First Last Love
◇◇村上健司◇◇ 対峙
金曜の夜、八時、今日の業務におおかたの目処がついたところで、自分のパソコンを通勤用リュックにしまう。今日は社外の人間と会う用事がなかったから、紺無地のトレーナーにダウンジャケットだ。
通勤用リュックを背負い、四十二階の多目的ルームで仕事をしてそのまま直帰することを浅見さんに伝える。
もちろん近くで誰が耳を澄ませているかは確認ずみだ。
どうしてそんなところで仕事を? って顔はされたけれど、最近の物思いに耽りがちな俺の様子に気づいているのか浅見さんは何も聞かなかった。
IDカードで四十二階の多目的ルームの中に入ると、整然と並ぶ長机のひとつにパソコンを置き、隣接する応接室を覗く。ソファがあり、長期戦にはもってこいだった。
一時間くらいパソコンを開いて仕事をすると、俺はそれを通勤用リュックに入れて背負い、多目的ルームを立ち去った。
社のシステムとして、社員がビルから出ると、Canalsのフロアにある人の出入りを表すボードは、ランプの色が赤から緑に変わる。
ビル外に出たということだ。この時間なら、帰宅か、社外での接待や打ち合わせで、もう戻らないものだとオフィスに残っている社員は思うだろう。