我儘お嬢様と無愛想なメイド

我儘お嬢様と無愛想なメイド

ここは魔法の国リデア。
生まれた頃から子供達は魔法が使え、学校に行き魔法を習い、立派な魔法使いとして世に放たれるのだ。
森にはまだ未知数な龍や魔獣がおり、結界を張って街を守っていた。

そんな街に、一際目立つ赤いレンガで作られた大きな城がある。その城には代々リデア一強い魔法使いが存在し、国を守っていた。

その城の一室にいるのはウェーブがかかった綺麗な長い茶髪をなびかせているお嬢様、アリシア。
そして、水色の長い髪を後ろでまとめ、白いエプロンと黒いロングワンピースを着たメイド、シェリル。
アリシアは、30cm程の白い魔法の杖を青く光らせた。この魔法の杖は、魔法使いが命より大事な物。この杖は、リデアに咲き誇る世界樹から作られている。


「シェリルに投げつけろ!リノン!」


アリシアが呪文を唱えると、部屋にあるぬいぐるみや枕が、シェリルに向かって投げられる。シェリルは、魔法を使わず、ひょいひょいと避けていた。


「ちょっと!!いい加減にしなさいよ!私はお嬢様なのよ!逃げてないで負けなさい!」
「少しは落ち着いたらどうですか?アリシアお嬢様。こんな弱い魔法で、私に勝とうなんて500年経っても勝てませんよ。」


その台詞にむきー!と怒ったアリシアは「これならどうよ!」と大きな置き時計を魔法で浮かせ、メイドに投げつけた。


「時を止まれ、ティア・フィーヌ。」


メイドが魔法を唱えると時計はかちん、と宙に浮いたまま動かなくなった。


「シェリル!真面目に私と魔法で勝負しなさい!」
「私はいつだって真面目ですよ。お嬢様が弱いだけです。」


「さあ、朝食の準備が出来ました。早く制服に着替えて学校に行って下さい。」と無愛想なメイド、シェリルは部屋を出て行った。顔を赤くして口を紡ぐアリシアは昔、幼い頃、シェリルと交わした約束を思い出していた。





「ねえ、シェリル。」


と広大な庭で花を摘んで遊んでいる、幼いアリシアは、側にいるシェリルに話しかけた。シェリルは、相変わらず無愛想で「何でしょうか?」と問う。


「抱っこして?」


すると、シェリルは「分かりました。」とアリシアを抱えた。アリシアはふふ、と嬉しそうにアリシアに抱きつく。
両親が忙しい中、アリシアの世話役として任されたのがシェリル。アリシアにとってシェリルはかけがえのない存在だった、だからこそ、


「私ね、シェリルのこと好き。付き合って?」


その言葉にシェリルは表情を変えず言い放った。


「私は私より弱い魔法使いには興味ありません。」


その瞬間、ガーンとショックを受けるアリシア。まだ幼いアリシアは上手く魔法を使えない。「ど、どうしても、付き合ってくれないの?」と泣き始める。シェリルは溜息をついて、持っていたハンカチで涙を拭いた。


「……では魔法で私に勝てたら、付き合いましょう。」





こうして、アリシアはシェリルと付き合う為に、魔法の練習や勉強を人一倍頑張った。そして、魔法学校を主席で入学した。
しかし、アリシアは何度もシェリルに魔法で挑むが、勝ったことがない。だからこそ、もっと強く、賢くならなければならないのだ。





魔法学校の制服、濃紅のワンピースに胸元には黒い薔薇とリボンを身に纏い、屋敷の門を潜る。学校に向かうアリシアを、窓から眺めるシェリルに他のメイドが、ニヤニヤしながら話しかけた。


「シェリルー。貴方って本当、無愛想ね。アリシアお嬢様があんなにアプローチしてるんだから、ちゃっちゃと付き合いなって。」
「私たちメイドの勤めは、お嬢様の身を守ることと周りの世話ですから。」


と相変わらずのシェリルに、そのメイドはつんつんと頬を突いた。


「とか言いつつ、お嬢様のこと、気になってるんでしょ。いつもこの窓から、お嬢様の登校をお見送りしてるんだから。」
「何のことを。さあ、仕事に戻りましょう。」


とシェリルは、すたすたと廊下を歩きだした。その後ろ姿を見ていたメイドは「素直じゃないなー。」と、呟いた。


学校に着いたアリシアは、どうやってシェリルに勝てるか悩んでいた。やはり、不意打ちで魔法をかけた方が…いやいや、それはこの前やって負けたし…とぐるぐると頭の悩ませていた。
すると、教室で女子達が集まって騒いでいた。気になって話を聞くと、


「宝石の様に輝くドラゴン?」
「そう!凄く綺麗なんだって!最近見つかったドラゴンで、鱗が宝石で出来てて七色に光るんだって!」
「へえー。」
「でもね、凄く強いらしくて、誰もその宝石を手にしたことはないの。」


宝石…シェリル、喜んでくれるかな、と思うアリシアはそのドラゴンに興味を持った。

そのドラゴンに勝てば、シェリルは付き合ってくれるのではないだろうか、と。

いやいや、当の目的はシェリルに勝つことだし、ドラゴンなんて相手しても意味がない。…でも、そのドラゴンに勝てるということは、シェリルに勝てるということではないだろうか。そして、宝石をプレゼントすれば、きっとシェリルは私を認めてくれる筈…!

と胸に期待を膨らませるアリシア。しかし、誰一人勝てないドラゴンに、自分一人で勝てる訳がない。
学校が終わると、とある人物のところへ訪れた。





町外れにある小さな家、古びた年季の入った木で出来た扉をアリシアは開ける。そこにはドロドロの液体を混ぜている老婆がいた。黒いマントを羽織る老婆は、アリシアを見ると混ぜていた手を止めた。


「おお、アリシア。よく来たね。」


と魔法でテーブルの上にジュースとお菓子を置いた。アリシアは椅子に座る。


「今日は何しに来たんだい?」
「ちょっと相談があってきたの。」
「…ふむ、例のドラゴンのことじゃな。」


「私の頭の中、覗かないでくれる?」とアリシアはジュースを飲んだ。


「シェリルを好きになって、何年経ったじゃろうな。諦めが悪いのう…。」
「完璧主義の私が、今まで諦めたことがあった?私は絶対、シェリルと付き合うんだから!」


すると老婆はふっと笑い、アリシアの向かいの席に座った。「ならば、教えてやろう。」と話しだした。


「宝石ドラゴン、またの名をシンドライト。アベールの森深くに生息しておる。…じゃが、いくらアリシアでも奴には勝てんじゃろう。」


すると、アリシアは飲み干して空になったグラスをバン!と音をたてて置いた。


「私を誰だと思ってるの!?リデア一強い魔法使いの娘よ!必ずそいつの宝石のかけらを手に入れるわ!」
「…全てはあのシェリルの為じゃな。」
「そうよ!シンドライトに勝てば、シェリルはきっと私を認めてくれるわ!」


絶対に…絶対に…とアリシアは、闘志を燃やしていた。その様子を見た老婆は、大きな本棚の1番上の棚にある本を一冊、魔法で動かした。本はアリシアの前に置かれ、ページが開いた。そこにはとある魔法が書かれてあった。


「…これは?」


主席のアリシアも初めて見る魔法で老婆は「禁術じゃ。」と呟いた。


「禁術は威力は絶大じゃが、大切な何かを失う悲しき魔法じゃ。どんな龍も魔獣も禁術を避けることは出来ない。シンドライトを倒したければこの禁術を使うしか戦う術はないじゃろう。
アリシア、お主はこの禁術を使うか?」


その言葉にアリシアは黙った。大切の何か失う、それは禁術が決めること…と冷や汗を流していた。けれどもシェリルに勝ちたい、勝って付き合うんだ、と自分に言い聞かせる。


「分かったわ、この禁術の呪文は覚えた。使うかどうかはその時になったら決めるわ。」


「ありがとう。」そう言ってアリシアは老婆の家を出た。そんなドアを見つめる老婆は「悲しいのう…。」と呟いた。





ここは、アリシアが住む屋敷の広大な庭。テーブルの上に林檎を置いて、アリシアは何度も禁術を唱えていた。


「全てを破壊しろ!グロードルト・マ・フィナーレ!!」


しかし、林檎は崩れる事なくシーン…と何も起こらない。アリシアは下唇を噛んで、悔しそうに言った。


「どうして、出来ないのよ…!私は強いのよ…!!もう一度!!」


その様子をシェリルは、屋敷の窓から覗き見ていた。
禁術の練習をして何時間、何日が経っただろう。未だに出来ない苛立ちから、アリシアは芝生に魔法の杖を投げつけた。


「…ふ、ふざけんじゃないわよ!呪文は完璧な筈…!なんで…!」


プライドの高いアリシアは悔しさでいっぱいだった。
その時、「お嬢様。」とシェリルが話しかけた。シェリルはアリシアの魔法の杖を拾った。


「魔法の杖は、私たち魔法使いにとって命より大切な物。ぞんざいに扱ってはいけません。」


その言葉にカチンときたアリシアは、「煩いわね!私の邪魔しないで!」と言い放った。


「……お嬢様、もう禁術の練習は止めてはどうですか?」
「シェリルに私の何が分かるというの!?杖返して!」


とアリシアは、シェリルから魔法の杖を取り上げて禁術の練習をし始めた。
シェリルは一瞬だけ、目を伏せてその場を去った。最後に自分の魔法の杖を光らせて。





ここはアベールの森。アリシアは、どんどん森の奥に入っては魔法で魔獣を倒していく。

(私は強いのよ…!こんな雑魚に構っている暇はないわ!!)


「火を放て!ファイン・ボーク!」


と魔法の杖を魔獣に向けて火を放つ。すると、魔獣は瞬く間に火だるまになり、シュウゥと消えていった。
アリシアは、更に森の奥深くに入っていく。木々が、空を覆い辺りが暗くなる。アリシアは、魔法の杖の先端に小さな火玉を灯し明かりを照らす。足元がガシャンと何かが欠ける音がした。…?とアリシアは足元を照らすと、地面が七色に光っていた。割れたかけらを拾う。


「…これは鉱石?」


いや違う、鉱石ならこんな森のど真ん中にある訳がない。ではこれは一体…と思った瞬間、アリシアの右足が地面から伸びてきた七色に光る石に絡まった。


「まさか…!これは…!!シンドライト!!」


地面の中から大きな七色に光るドラゴン、シンドライトが姿を現わす。その姿はまるで神様のように光輝いていた。アリシアはすぐさま、呪文を唱えた。


「火を放て!ファイン・ボーク!」


と火はシンドライトの顔に命中した。が、全く効果がないのかシンドライトは「キイイイイイイ!!!」と叫び怒りを表した。
中級魔法じゃ駄目か…!と、アリシアは上級魔法と唱えようとする。しかし、シンドライトは口から宝石でできた欠けらをアリシアに放つ。


「時を止まれ、ティア・フィー…!きゃあっ!」


唱え終わる前に、シンドライトの攻撃が当たる。
アリシアは逃げようとするが右足が宝石で掴まれていて動くことが出来ない。
シンドライトが放った大きな宝石のかけらがアリシアを襲う。


(防御呪文なら…!お願い……!!)


とアリシアは周囲に結界を作り、防ぐが簡単に壊されてしまった。その時、宝石で動けなくなっていた右足が、シンドライトの攻撃で自由になった。
その瞬間、宝石の欠けらがアリシアがつけていたネックレスを掠め、パリンと割れた。
それに気づかなかったアリシアは、逃げなきゃ…逃げなきゃ……とよろけながらも森の出口まで走った。


(強過ぎる…!逃げないと…!)


と青ざめながら、アリシアは無我夢中に走っていく。しかし、シンドライトはアリシアを追いながら地面を宝石に変えていく。そして、その宝石になった地面はアリシアの足部分までに到達した。
そして、再びシンドライトが口から大きな宝石のかけらを放つ。

もう駄目だ、死ぬ…!と思った瞬間、


「結界を張れ!マイル・ド・レイド!」


と大きな円形の盾が、アリシアの周囲を守る。この声は…とアリシアは涙目で声がした方を向くとシェリルが立っていた。


「シェリル!」
「ネックレスが割れたと思ったらこんなところで何やってるんですか、お嬢様。」


「早く逃げましょう。」とシェリルはアリシアの宝石に掴まれているブーツを脱がして立たせた。

先程割れたネックレスは、シェリルが作ったもので二つある。一つはアリシア、もう一つはシェリル。アリシアに何かあった時、このネックレスが割れた時、シェリルの持つネックレスも割れるのだ。


「嫌よ!私は逃げない!!」
「さっきは逃げてた癖に?」
「うっ、」


相変わらず無愛想で可愛くない…!とアリシアは思う。


「あれはシンドライトですね。はあ…何の為にあんなに強い龍に挑むのですか…。さあ、お嬢様、走りますよ、逃げましょう。」


とシェリルはアリシアの手を握る。しかし、アリシアは諦めてはいなかった。ここで逃げては、シェリルに飽きられるかもしれない、何を馬鹿なことやってんだって。でも…でも…とアリシアは涙を流す。

私はシェリルが好きなのだから…!!


「我の身体に宿す魔力達よ、今解き放つ時がきた!全ての魔力をあのシンドライトへ放て!!」


「お嬢様!いけません!!」シェリルはアリシアの魔法を聞くと、青ざめてすぐさま魔法の杖を彼女へ向けたその瞬間、アリシアはシェリルを見た。その表情は悲しくて優しくて、


「…ありがとう、シェリル。」


そして、シェリルは涙を流した。アリシアは呪文を唱え続けた。


「全てを破壊しろ!グロードルト・マ・フィナーレ!!」


その瞬間、辺り一帯が真っ白になった。

シェリルは知っていた。アリシアがシンドライトに挑む理由も禁術のことも。だからこそ、アリシアが禁術を練習する時、密かに彼女の魔法を無効化する魔法をかけて諦めさせようとしていた。

風が強くて、前がよく見えない。シェリルは、思わず目を閉じた。





「…う…ん、ここは…?」
「お目覚めですか、お嬢様。」


とアリシアは目を覚ました。側にはシェリルがいた。アリシアはハッとして、


「シェリル!怪我は!?」
「していません。それよりも、」


とシェリルは、アリシアの頬に手を添えた。


「お嬢様は大丈夫なのですか?もう三日も寝続けいたのですよ。」
「三日も…?」
「はい。」


すると、シェリルはアリシアに七色に光るペンダントを渡した。アリシアは、これを見ると首を傾げた。


「お嬢様がシンドライトを倒された後、欠けらでペンダントを作りました。もう壊しませんように。」


「それと…」とシェリルは続けた。


「勝負はお嬢様の勝ちです。私と…、」
「勝負って何の勝負?」


きょとんとするアリシアに、シェリルは目を伏せて、「…いえ、何でもありません。」と言い、部屋を出た。

そう、シェリルの失ったものそれは『シェリルへの愛』。
もう既に、シェリルのことが好きという感情は無くなっていたのだ。

シェリルはアリシアの部屋を出ると顔を歪ませてその場に座り込んだ。涙が止まらない。こんなことなら最初から告白されたあの日から付き合っておけばよかったと後悔した。

なんて馬鹿な自分なのだろう。何故、毎日勝負を挑んでくるアリシアの気持ちに応えなかったのだろう。
本当は大好きだった。けれど、プライドが邪魔をしたのだ。
シェリルは後悔する他なかった。


「……お嬢様。」


とシェリルの首には七色に光るペンダントが光った。
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