夢見る契約社員は御曹司の愛にスカウトされる
「あ、いえ。昔は家でカフェみたなこともしていました。でもなかなか大変で、今はお茶の生産と卸しだけなんです。私はこういったお茶の二次活用に興味があって、というか下心があって、実は千堂製菓へ入ったんです」

「そうか。それで色々お茶の菓子について考えていたんだね」

「あ、はい。私個人の感想なので気にしないでください。今は普通の抹茶チョコが好きな人も多いですものね」

「君が考える抹茶味ではないんだろ?」

 莉愛はこくんと頷いただけで黙った。祐樹は先ほどのスケッチブックの細かい商品設定文章を見たんだろう。

「すみません。ちょっとおトイレに行ってきます」

 莉愛は席を立った。尚人が言う。

「祐樹さん。本山は抹茶にこだわりが……本山茶舗の看板商品の抹茶は、茶道の先生には有名らしいですよ」

 修二は莉愛のいなくなった方を見つめた。

「彼女、可愛いだけじゃなくて芯のある子だな。何も考えないで働いている正社員連中とは大違いだ。それより、尚人前から話していたのってあの子のことだろ?残念ながら、彼女はまだお前を意識してるようには見えない。頑張ってアプローチしろよ」

「だから、兄さんうるさい」

 祐樹は携帯を手に黙って立ち上がると、トイレの方へ歩いて行った。

 修二はそんな祐樹を見て驚いた。祐樹が女性の跡を追うのを初めて見たのだ。

 莉愛はトイレを出ると角を曲がった。

 そこには腕を組んで壁にもたれた祐樹がいた。
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