夢見る契約社員は御曹司の愛にスカウトされる
「びっくりした……」

「こっち来て」

 祐樹は騒がしい店を出て、彼女に言った。

「連絡先を教えてほしい」

 携帯を見せて莉愛に促す。

「どうして?」

 会社は今日までだし、彼とはもう会わない。ハンカチはいらないと駅のホームでも言ったはずだ。

 祐樹は不機嫌そうにむくれた。

「君にハンカチをいずれ返したい。だから近いうちに連絡する。お礼をさせてほしい」

「いらないって言ったじゃないですか。わざわざそんなことして頂くほどのことじゃないです」

 莉愛はカバンから携帯を出そうとしない。それを見た祐樹は見るからに機嫌が悪くなった。

「どうして教えてくれないんだ。もちろん変な意味じゃない、お礼がしたいのと……さっきのスケッチブックだけど、他の会社に転職するんじゃないなら少し待っていてくれないか」

「どういう意味ですか?」

「僕は海外事業部の部長なんだが、一応、潮見部長は以前の上司でよく知ってる。潮見さんが推薦するほどなら、君は会社に有益な人なんだろう。僕の方でも少し動いてみるよ」
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