夢見る契約社員は御曹司の愛にスカウトされる
 莉愛はぼんやりとした目で握られた自分の手と、祐樹を交互に見ている。そんな彼女に祐樹は言った。

「まったく、そんなんでフラフラこんな時間に歩いていたら、紳士じゃない奴に食べられるぞ」

「誰にも食べられたことありませーん」

 ため息をついた祐樹は、莉愛を庇うように通りの方を自分が歩いた。

 そしてまた逆の手を握りなおした。

 莉愛は祐樹を見て、彼はやっぱり紳士なのかもしれないと少し思った。

 彼のさりげない優しさが嬉しかった。

 大きくて温かい手が莉愛を守ってくれているようだった。

 下から長身の彼の顔を眺めていたら、聞かれた。

「なんだ?」

「えっと祐樹さんっておいくつなんですか?」

「僕は34歳だ」

「部長ってそんなに若くてなれるんですか?」

「なれるかどうかは職種によるかもしれないな。僕は海外へ行くときにある権限をもらいたくてね、相談したら部長にされちゃったんだよ。お蔭で動きやすくはなったかな。皆の希望通り、M&Aには有効だったね。君は尚人と同い年?」

「私は26歳です。葛西君がひとつ上ですね。でも大学では同級生でした」

「なるほど。大学時代からの知り合いか。ふたりは付き合ってた?」

「いいえ。今も、昔も付き合ってません。ただの友達です」

「……ふーん」

「あ、着きました」
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