夢見る契約社員は御曹司の愛にスカウトされる
「あら、佐伯部長。お帰りなさい、久しぶりねえ。帰ってきてから全然こっちには顔を出してくれないから、国内のことはもうどうでもいいのかと思ったわ」

「ひどいな、そんな言い方しなくても。僕がお世話になった潮見さんを忘れるほどひどい人間に見えますか?」

「そうね、そうじゃないはずだけど、長い間あちらにいて日本の義理人情を忘れたかと……血も涙もない買収部長というあだ名ですからね」

 潮見はウインクして見せる。祐樹はため息をついた。

「ちょっと聞きたいことがあります。今、少しだけいいですか?」

 目くばせした祐樹に、潮見は打ち合わせ室を指さした。彼女はとなりの職員に伝えると、ふたりはそこへ入っていった。

 祐樹は本山莉愛と知り合った経緯を軽く話すと、彼女から部長が上に掛け合っていたと聞いたことを話した。

 そして、実際に彼女の仕事ぶりを確認した。所属部長としてどう見ていたのかを知るためだ。

「なるほどね。やはり彼女はお茶を使った商品を別で作りたがっていたのか」

「チョコの甘味にお茶の苦みと風味を求めるのではなく、お茶本来の甘味を感じるものにしたいらしいの」

「確かにそう言っていましたね」

「営業力もあるし、人柄もとてもいい子よ。一年ごと期間契約だったのに、毎年延長させてた。四年もいたの。私も無期雇用の社員にしたかった。彼女のお茶の知識はとても役に立つ。今、ドリンク販売もやっているじゃない。だから、そういうのにもアドバイスもらったの」

「なるほどね。じゃあ、とっとと社員にしましょう」

「ちょっと、佐伯君。無理よ。ここ数年、社員登用は見送られてる。私、彼女が退職も考えてるって知って、人事に再度頼んだんだけど却下された。結局理由は人件費。くだらなくてがっかりだった。人を育てるのにどれだけ大変かちっともわかってない。あ、ごめん、人事部長は義理のお兄さんになったんだよね」

「そちらに頼まず、別で頼んでみます」
< 35 / 88 >

この作品をシェア

pagetop