夢見る契約社員は御曹司の愛にスカウトされる
「祐樹……お前、突然来たと思ったら、何だ一体?」

 先週まで契約社員だった本山莉愛を社員にしてほしいと頼んだ。

「以上、そういうわけでもう一度ご検討いただきたいのです」

「はー。お前が俺に頼み事なんて雨が降る」

「雨は降りません。今日一日中快晴だと、さっき予報で見ました」

「お前ときたら……本山さんを毎回契約のままで延長させていたのには訳がある」

「やはり何か人件費以外の理由があるんですね」

「その通り。彼女はお茶問屋の娘だろ。だが、その問屋会社は年々右肩下がり。彼女がお茶を使った商品を提案したがっていたというのも部長経由で聞いている。正社員になってうちと取引するのが目的だったんだろう。うちは今リスクの大きな取引はしないと決めている。彼女の有能さはわかっていたが、彼女の目的を受け入れるのは難しい」

「そういうことですか。相変わらず、うちは保守的だな。お茶を使った菓子は国内のみならず、海外向けにいいと思ったんです。言ったでしょ、買収して輸入するだけじゃなくてうちからも輸出したいって。成功すると思うんだ。直感だけどね」

「また始まった。お前のその直感とやらはよくわからんが、今のところ当たっているからな。それはお前が責任を取るということだろう?正社員にするなら海外部門へ入れろよ。国内営業部長の俺は関係しないからな」

「ええ、もちろんそのつもりです。こっちの予算内でやりますから……父さんがぐちゃぐちゃ言ってきたら頼みます。サエキの方は僕がなんとかしますから」

「お前は……なぜ自分で父さんに言わない?社長の父さんに頼んだらお前ならすぐに……どうして俺に頼むんだ」

「姉さんの結婚相手より、専務の兄さんのほうに最後の人事権があるからですよ。それに、この会社はどうせいずれ兄さんのものだ。僕は僕ができるだけのことをします。僕は千堂とは縁が切れましたからね」

「祐樹……」
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