夢見る契約社員は御曹司の愛にスカウトされる

彼の立候補1

「お前の言った通りだった。あのメーカーはうちのお茶を馬鹿にしてる。値段の違いも意味がないとかいいおったわ」

 莉愛はため息をついた。莉愛の父はこうなると話が長い。莉愛の母は黙って横でお茶を入れている。新茶の季節でいい香りだ。

「それでだな、莉愛。実は聞いてほしいことがある。見合い話だ」

 父が莉愛に頭を下げた。莉愛の嫌な予感が的中した。この雰囲気からして何かあると思ったのだ。

「お父さん、頭を上げて……もしかして相手は合併を考えていた大きな茶舗?」

「実はな、老舗の花邑茶舗の息子さんだ」

「花邑?絶対嫌!お父さん知っていてそんなこと言うの?」

「あなた、縁談って花邑の御曹司だったの?この子が嫌がってるの知っていてよくそんな……」

 莉愛の母が立ち上がった莉愛を座らせた。

 八年前のことだ。

 茶問屋で開催した販売会の時に、莉愛は代表として着物姿でお茶をたててふるまった。

 茶道は小さい時からやっていたし、とても好きだった。うちの宣伝になればと本山茶舗のために引き受けた。

 着物姿と黒い長い髪が眼を引いたのかもしれないが、人だかりができてしまった。

 たくさんのお客様が来て全員をもてなすことができないくらいになった。

 終わった直後から、何人かの男性に声をかけられた。莉愛は驚いた。そんなつもりはみじんもなかった。

 その中で特にしつこかったのが花邑の御曹司だったのだ。

 莉愛は当時18歳だった。男性のあしらい方もわからずとても嫌な思いをした。

 いずれ花嫁候補にすると言ったときの、彼のあの目が蘇った。寒気がした。
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