夢見る契約社員は御曹司の愛にスカウトされる
「あれからもう八年だ。お前も、もちろん彼も変わっただろう」

 花邑茶舗はこの業界で全国二位のシェアを誇る大きな茶舗だ。

 ありとあらゆるお茶を扱っているが、お茶席で使う抹茶を主力としているうちのお得意さんにここ数年介入してきていた。

 莉愛の父は、花邑茶舗の社長から先日の問屋会合で久しぶりに声をかけられた。

 御曹司がいまだに莉愛との見合いを強く希望しているので、よかったらお茶屋の発展の為にも縁談をうけてくれないかと相談されたという。

「莉愛も知っての通り、花邑は業界二位だ。縁談が成立しても買収はしないと約束してくれた。あちらの傘下に入るが提携だけで、以前のお得意様もうちに戻してくれるそうだ。それに本山主力ブランド『燻抹茶』を前面に押し出して、日本全国の茶道師範にも展開させてくれるというんだ」

 莉愛はそれを聞いて、ただ悲しかった。花邑のことは男性不信になるくらいの心の傷だった。

 大学時代もそのせいで男性とお付き合いできなかった。母はそのことをよくわかっているが、莉愛の父は軽く考えていたようだ。

 父は入り婿だった。

 亡くなった祖父からこの茶舗をきちんと継ぐことを相続の条件にされている。

 結局一人娘より茶畑を維持するため、ブランドを保持することしか頭にないんだとわかった。

「彼と結婚すれば、将来は花邑茶舗の社長夫人だ。悪い話じゃないぞ。あちらの社長の奥様はお茶の師匠だ。六年前、お前のお点前を見て気に入ってくださっていたらしい。息子さんがお前に声をかけたのも、社長夫人がお前を褒めていたからだったそうだ。どうだ、一度会ってみてくれないか?前よりはずっと息子さんも大人になったはずだよ」

 すると携帯電話が震えた。着信だ。見ると、祐樹だった。

「あ、はい。本山です。あ、この間はどうも……え、これから、ですか?」

「ああ、ランチを一緒にどうかと思って……もちろんこの間のお礼で奢りだよ。僕の車で迎えに行く。そうだな三十分後くらいに君の家の前に着くけど大丈夫?」
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