夢見る契約社員は御曹司の愛にスカウトされる
「そんなわけないわ。嫌なら断ればいい。そうでしょ、あなた」

「それは……見合いの席だけは出てほしい。会って話してみてそれでどうしてもとなればもちろん断ることも許される」

「……わかった」

「ああ、ありがとう、莉愛」

 嬉しそうな父親を見て、莉愛はため息をついた。会ってしまえば、政略結婚でうちが断れるはずもない。

 それに、おそらくこの縁談が決まったら、莉愛は外で働けない。茶舗の仕事をすることになるだろう。

 祐樹に何と言って詫びたらいいんだろう。

 莉愛は母親に目くばせをした。彼女は莉愛を連れて隣の部屋へ入った。

「お母さん。まだわからないけど、もしかすると私、千堂製菓の正社員になれたのかもしれない」

「……ええ?!」

「先ほど電話はおそらくその件……最終日に海外事業部の有名な部長さんとちょっと知り合うきっかけがあって、雇用のこと動いてあげると言ってくださっていたの。そのお返事なんですって」

「それはすごいわね。でも、莉愛は何度も申請してもらってもだめだったって言ってたじゃない」

「あ、うん。でもどうしよう。縁談が決まったら千堂製菓では働けないよね」

「莉愛……ごめんね。ひとり娘のお前を茶畑と天稟にかけてしまって……」

「お母さん……」

「いくらいい条件だと言っても、まさか相手が花邑だったなんて……うちがあちらに従わないといけない条件の結婚なんてお前が不幸になりそうで私は反対よ。でも工場のこともある。お前には言ってなかったけど、このままだと数人仕事をやめてもらわないといけないの。莉愛、見合いは受けて嫌なら適当な理由をつけて断りましょう。そのときはお母さんが矢面に立つから気にしなくていいわ」
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