夢見る契約社員は御曹司の愛にスカウトされる
「お母さん、私だってお爺ちゃんが大切にしていたものを私も守りたいと思ってた。でもこんな縁談をお父さんが決めてくるなんてうちの経営って本当に大変だったんだね。私も夢ばかり言って契約社員で働いている場合じゃなかった、ごめんね」

「莉愛のせいじゃないわ。私達が悪いのよ」

「とりあえず、行って話を聞いてくる。それで一応縁談があることを伝えてくる」

 ちょうど、祐樹さんからメールが来た。着いたようだ。早かった。

 莉愛はお気に入りのピンクのワンピースにカーディガンを羽織った。玄関先の鏡に映る自分を見る。急で髪をまとめる時間がなかった。

「これでいいかな?祐樹さん、仕事抜けて来たならスーツだよね……あんまり変な格好でランチご一緒できないよ。何しろイケメンで人目を引くから、隣はちゃんとしないとね」

 莉愛はパンプスを履くと、行ってきますと言って玄関を出た。工場の裏手に回ると見るからに違う車が停まっていた。

 祐樹は莉愛に気づくと、車から出た。

「やあ、あまり待たせずについて良かった」

「すぐに道わかりました?」

「ああ。この間駅から歩いたし、大通りからすぐだからな。どうぞ、お嬢様。お入りください」

 祐樹はうやうやしく助手席のドアを開けた。

「やめてください、そんなんじゃないです。でもさすが自称紳士の祐樹さん、その姿も様になってますね」

「失礼な……自称とか言うなよ」

 祐樹さんはむっとした。莉愛はこんな面白い人が噂通り怖い買収部長だとしたら、仕事の時はきっと別人なんだろうと思った。

 莉愛は革張りの車に乗り込んだ。チョコの香りだ。うちの社用車でもここまでいい香りはしない。
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