夢見る契約社員は御曹司の愛にスカウトされる
「はい。とりあえずお見合い自体は受けないといけないらしくて……結果が出るまで少し待ってもらえませんか」

 祐樹の眉がピクリと動いた。そして長い指がトントンと目の前のテーブルを叩いた。

「縁談の相手を聞いてもいい?」

「花邑茶舗の……息子さんです」

「へえ、花邑茶舗……奇遇だな」

「はい?」

「いや、こっちの話。業界では大手だけど、あまり業績はよくないよな」

「業績よくないんですか?ただ、茶舗業界では国内シェアは二位だと思います」

「つまり、その縁談は政略結婚ってことだろ?君の所との合併を視野にいれた縁談?」

「もし縁談がまとまれば、うちがあちらの傘下に入るけど、提携のみらしいです。うちのブランドを全国区にするため力を貸してくれます。名前や畑はうちの管理のままにするそうです」

「なるほどね。親御さんはその条件で落ちたんだな。言いづらいんだが、君のことを上に相談する際、ご実家の本山茶舗について少し調べさせてもらった。経営はかなり厳しいようだな。しかも主力商品は高級路線。あれでは相手を選ぶ。決まった相手にしか売らないつもりなのか?」

「父はお茶の価値を知らない人に値切られたり、ケチを付けられるのを本当に嫌がるんです。うちの家訓は値段を下げるために品質を落とさないことです。お茶席の抹茶を中心に有名なんですが、ここのところ花邑茶舗がうちのシェアを浸食してきていたんです」

「ふーん……それじゃ、君はうちの正社員を諦めて、家の為に次の花邑茶舗夫人を選ぶのか?」

「ここだけの話、私は花邑さんに八年前言い寄られたことがあって逃げたんです。だからすごく嫌なんです。見合いをしてからというお話なので、とりあえずお会いしたら理由をつけてお断りしたいんです」

「ほう。そんな前から見染められていたとすると、よほどだな。彼は君を狙っていたんだろう。それを知っていて君のお父さんは縁談を受けたのかい?」
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