夢見る契約社員は御曹司の愛にスカウトされる
 車は本社の地下駐車場へ入っていく。

「そんな有様を社長に見られたら、すぐさま実家に連れ戻されるんじゃないのか?」

 祐樹は目の上に例の保冷剤をのせた。

「ああ、そうかもしれない。できれば顔を合わせたくない。これも本社へ戻りたくないという俺の知恵熱かもしれん」

「あはは。おい祐樹、額に何のせてんだ?そのハンカチ誰のだよ?女物じゃん!」

 赤信号でこちらを見た修二は彼にかみつくように聞いた。

「これは……秘密だ」

「おい、秘密ってなんだよ!」

「大きな声を出すなよ。頭に響く……」

「具合が良くなったら絶対に教えろよ。お前、俺に内緒で彼女を作るとか許さんぞ。こちとら遠距離で我慢してるっていうのに……」

 ぶつぶつ言う修二を無視して、祐樹はぐったりと少しリクライニングした椅子へ横になった。

 やはりこの保冷剤をのせるとだいぶ楽だ。

 それにこのハンカチからなぜか懐かしい香りがする。

 それがまた気持ちを落ち着かせてくれるのだ。とてもいい。

「修二。午前中は寝る。あと頼む」

 祐樹は与えられた部長室のソファに座ると、あっという間に寝てしまった。

 修二はため息をついて、彼の予備の背広を布団がわりに祐樹の上にかけてやった。

 デスク上の電話線を抜いてから、窓のブラインドを下げた。

 そして黙って部屋を出て行った。


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