夢見る契約社員は御曹司の愛にスカウトされる
「いつまでもらちが明かない。時間ないんじゃないのか？」

　莉愛は腕時計を見て、驚いて中腰になった。すでに約束の時間に近づいている。

「そう、そうでした、帰らなきゃ！」

「さて行こうか……花邑茶舗の御曹司はどんな奴だろう。楽しみだな」

　莉愛は得意げな祐樹を見て驚いた。

　莉愛の父は条件しか頭にない。いくら彼がただ自分のお相手に立候補してくれたところで見合い話が覆るとは思えない。

　でも祐樹のこの自信ありげな様子を見る限り、何か作戦があるんだろう。

　花邑との結婚は絶対に嫌だ。彼を信じてみようと思った。でも結婚するには知らないことが多すぎる。

「祐樹さん。あの、私……あなたのことも、お家のこともあまりよく知らないんですけど……とりあえず結婚って言ったって……」

　運転しながら祐樹は答えた。

「僕は君と最初に話をした時から直感があった。さっき言ったよね。だから連絡先を聞いたんだ。実はあのスケッチがなくても、再会できただけでそうしたと思う」

「え？」

「でも結婚となると話は違うのかな？君がどこの家の誰かなんて正直興味なかったけど、君は僕がどこの誰かがやはり気になる？」

「結婚の話が本気なら気にならないと言えば嘘です……最初会ったときは、祐樹さんがうちの社員で、しかも海外事業部長だなんて知りませんでした。私のスケッチに興味を持ってくれて、不思議な人だと思っただけでした」

「例えば、海外事業部長だということは、僕の社会的地位でしかない。佐伯祐樹という僕個人がどんな人間かを知ってほしいし、君にも名前で呼んでほしいと言ったのはそういう意味だ」

　赤信号で止まった彼は、ハンドルに両手をかけると莉愛をにっこりとして見た。
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