夢見る契約社員は御曹司の愛にスカウトされる
 しかし、祐樹の長い脚には関係なかったようだ。さっさと段差をまたいで歩いていく。

「いいですね、和風建築。アメリカにいたので、すごくこの香りに落ち着きます」

「すみません、お茶臭いですか?」

「いやいや、これがいいんだよ」

 廊下を歩くと居間が見えた。

 すると、母が後ろから駆けて来て言った。

「待ってください……あの、お客様がいまして……莉愛、どうして……」

 止まった莉愛と祐樹は母親を見た。

 そして、祐樹が莉愛の話を遮るように、手をあげた。祐樹が話し出した。

「彼女から聞いてます。縁談相手がお見えだとか……一応同じような食品業界にいますので、ご挨拶させて頂こうかと思いましてね」

 莉愛の母は困った顔をして祐樹を見た。莉愛は苦笑いを浮かべるしかできない。

 莉愛の母は言いづらそうに答えた。

「あの、申し訳ないのですが……家族だけで……」

「彼女の夫が誰になるかを決めるんですよね。実はそれを聞いて、僕も先ほど立候補しました。さあ、行こう」

 そう言うと、くるりと向いて莉愛に案内するようにと首をかしげて促した。

「……立候補?え?」

 母は立ち止まり、繰り返すようにつぶやいた。

 莉愛は先導して居間へ向かった。祐樹がうしろにいると思うだけで何故か怖いものは何もなかった。

 長い廊下を抜けると居間のふすまが見えた。
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