夢見る契約社員は御曹司の愛にスカウトされる
「花邑さん。先日サエキ商事にお父様である花邑社長がお見えになって提携についてご相談されたと聞いています。その時は残念ながらそちらの業績からリスクが大きく佐伯の父はお断りしました。でも莉愛さんや本山茶舗のことを諦めて頂けるなら取引について条件付きで父へ口添えさせてもらいます。どうでしょうか」

 ぴくりとした花邑さんは祐樹さんをにらみつけた。

「どうしてそれを……!まさかサエキ商事?父って、サエキって……」

「僕は千堂製菓の社長の次男ですが、今はサエキ商事の現社長の養子です。元々サエキ社長は母の兄で叔父です。叔父夫婦に子供がいないので甥で次男だった僕が請われて六年前養子に入りました。僕は千堂で輸出入を管轄する部署にいまして、それも商社のサエキが後ろにいるからなんですよ」

 その場の空気が凍り付いた。私は驚きすぎて口がぽかんと開いてしまった。

「サエキ商事の養子って……え……?」

 莉愛の父がつぶやいた。祐樹は莉愛の父を見てうなずいた。

「花邑さん。花邑茶舗はこれを拝見した限りではかなり大変な状況なんでしょう。本山さんそのことを知っていましたか?おそらく、本山茶舗と提携とは名ばかりで、縁談後は莉愛さんを使って丸ごともらう計画なんじゃないですか?」

 ガタンと音を立てて花邑さんがまた中腰になった。

「そ、それは……わ、わかった……とりあえず、帰って父と相談してくる」

「はい、そうしてください。ご連絡は僕の名前を出してサエキ商事の営業二部長にしてください。あちらには話を通してあります」

 にこにこする祐樹を見た花邑は逃げるように部屋を出た。莉愛の父は慌てて玄関まで彼を追って行った。

「ちょっと、祐樹さん……何なのよ……」

「ん?」

 莉愛は得意げな祐樹をにらみつけた。
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