夢見る契約社員は御曹司の愛にスカウトされる
 家業である本山茶舗は創業明治の古い茶舗で、茶問屋だ。

 莉愛が大学を出たころはまだ家の敷地内でお茶カフェも経営していた。

 卒業後は莉愛もそこで働いたり、工場を手伝ったりしていた。

 しかし一年後、家の向かいの通りに有名カフェチェーンが店を出した。するとあっという間に客を取られた。

 莉愛は外で働きたいと両親に頼んだ。お茶カフェではお茶席で出していたような抹茶と和菓子のセット、あんみつなど甘味処のような和の商品ばかりを置いていた。

 莉愛は小さい頃から平気で苦い濃茶を飲んできた。子供時代、そのおともに食べていたのは子供も買えるような一般的なチョコやクッキーなどのお菓子だった。

 莉愛はいつからか手軽なお菓子と砂糖不使用のお茶を組み合わせたいとずっと思ってきた。

 甘い抹茶チョコとかではなく、菓子より苦みのあるお茶の味をメインにした商品があったらいいのにとずっと思い続けてきた。もし就職するなら夢をできるだけ実現できるところがいいと思っていたのだ。

 莉愛の夢を聞かされていた大学時代の友人である葛西が、自分の入社した千堂製菓はどうかと勧めてきたのだ。

 莉愛が千堂製菓の看板チョコを、授業中にこっそりといつも食べていたのを彼は知っていた。

 莉愛は夢が実現できるかもしれないと葛西の話に乗った。元々、きちんとした就活をしたこともなければ、資格を取ったりしていたわけでもない。

 学生時代から店の手伝いばかりしていて、外の社会経験に乏しいことで就活に自信が持てなかったのもある。

 だが、千堂製菓へ中途で入るのには条件があった。正社員ではなく、契約社員だったことだ。契約は一年更新だった。

 正社員がいいと思っていた莉愛は躊躇した。
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