夢見る契約社員は御曹司の愛にスカウトされる
 ところが葛西は、自分の親族がこの会社にはいるので、すぐに正社員にしてもらえるよう頼んでみるからと彼女を説得した。就職活動も不安だった莉愛はうなずいてしまった。

 でも、正社員になれるというのは目論見違いだった。

 本当なら今頃正社員になっているはずだった。莉愛は結局四年間正社員になれなかった。葛西の口車に乗ったのが間違いのはじまりだった。

 契約社員から正社員になった人はここ二年まったくいなくなった。希望を出しても認められない状態がつづいていた。

 諦めかけていたそんな時、今年正社員になれないなら家へ戻ってくれないかと父から頼まれた。家業の本山茶舗の業績がよくないので、従業員を少し減らさないといけないと相談されたのだ。

 今年こそ、正社員になるつもりで試験を受けた。だけど、先週結果が出て試験を受けた誰もが正社員になれなかった。つまり莉愛のせいではなく、あくまでも会社側にその気がないのだ。莉愛は諦めた。

 そして、父との約束通り、ひと月後の今年の契約満了日で退職を申し出たのだ。今日がその最終日だ。

 朝礼後、最後のルート営業に出た。量販店やスーパーなどへ行って売り上げや状況を把握し、新たな戦略を練ったり、卸す商品を決めたりするのだ。いつものスーパーの男性担当者に言われた。

「個人的には大人向けの商品があってもいいと思うんですよね。これは小さい子から大人まで食べられるお菓子ですけど、チープなイメージもある。もっとこのメーカーみたいに、洒落た大人向けの商品あったほうがいいんじゃないですかね」

「なるほど。具体的にはどんなものがいいでしょうか?」

「ほら、洋酒の入ったのとか……もう少し高価格帯で大人向けのに変えたら少しは売れるんじゃない?」

 この店の売り場担当者はいつも意見を言ってくれるのだが、こちらの要望は全くと言っていいほど聞いてくれない。売り場をこういう風に変えてほしいという莉愛の希望なんて聞きもしない。

 常にメーカーのこちらに商品を変えることばかり頼んでくる。陳列方法などももう少し工夫してみれば売れると思うのだが、自分では何もしようとしない。
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