ヤドリギの約束
 だけど、約束の時間を過ぎても彼は来ない。
 残業だし、仕方ないか。
 そう思いはするものの、時間はどんどん過ぎていく。

 三十分を超えると、さすがにそわそわし始めた。
 周囲はカップルばかりで、明るく食事や会話を楽しんでいる。

「ねえ、あの人ずっとひとりだね」
 気の毒そうに誰かが言うのが聞こえた。

「やめろよ」
 男が咎め、すぐに話題は別のことに変わった。
 私はいたたまれなくて、スマホを確認する。
 残業の連絡以降はなにもメッセージが来ていない。

 もしかして。
 不吉な考えが頭をよぎる。
 事故とかそういうことだろうか。
 私はさきほど以上にそわそわして、落ち着かないままスマホを見続けた。

 そのまま一時間が経過し、一時間半が過ぎたころ。

「すみません、予約の片桐ですが!」
 入口から大きな声が聞こえて来た。

 やっと来た!
 私は思わず立ち上がった。
 彼は慌てて私のほうへ小走りで来る。
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