捨てられ令嬢は妹の不敬を払拭しに公爵家にメイド見習いに行ったら、魔術師団長に求婚をされました。
STORY 1
大陸の西にある歴史と伝統を持ち魔法国で精霊たちに守られていると言われているフェリーク王国。生まれた時から国民全てに精霊から魔力を授かっており、貴族は五要素の木・火・土・風・水のどれかの適性を持っている。その中で、精霊の加護を持つ者……愛し子は尊い存在だ。
そして五要素の中にはない、滅多に現れることがない花の精霊の愛し子に選ばれたらこの世は平和が続くといい伝えられているが百年は現れてないため御伽話になっている――……
***
ここは、フェリーク王国の中心にある王都。王都の貴族街に、由緒正しい伯爵家でラッフィナート家という家がある。
勤勉な現当主と優れた水使いの魔術師である夫人は政略結婚だったのだが、仲が良く夫婦仲も良好だった。ただ一つ、何年経っても子どもが出来なくて周りからいろいろ言われていた。これ以上言われるなら、養子を取ろうというところまで来ていた時に夫人の妊娠が発覚して生まれたのは可愛らしい女の子だった。
クララと名付けられたその子は、魔力が強く風と光の精霊の加護を持っていたため少し前に生まれた火の加護持ちである第二王子・ゲイン殿下の婚約者に抜擢され王宮で暮らしている。
現在通っている国立の王侯貴族が通う学園を卒業したら結婚する予定なのだ。
「……はぁ〜」
ため息なんて吐いたら、また教育係に怒られてしまうなぁと思いながら私――クララ・ラッフィナートは机に顔を付き唸っていた。
これじゃあ、完璧な淑女とは言えないわ。というか、完璧な淑女って何!?隙を見せちゃいけないって何!?
そんなことをブツブツ言っていれば、第二王子の側近が書類を持って来ていた。
「……クララさま、大丈夫ですか?」
「あ、あぁ。ルードヴィッヒ様……すみません」
この人は、ゲイン殿下の第二側近である子爵家の嫡男。
頭脳派一族と呼ばれる家出身とあって頭脳明晰で優秀な彼だが精霊の加護なしで爵位は下だが殿下の側近として……というか、王子代理をしている私の補佐官として働いてくれている。
「お疲れですね、また隈が出来てますよ」
「……あはは、そうですね。だけど優秀なルードヴィッヒ様がいらっしゃるから、少しは……」
「あなた様ほどではないですよ? 私は加護持ちじゃないので、そちらはできないから」
そちらと目を向けたのは、国各地の魔術師団の方の要望書やら報告書やらの類だ。見るだけならルードヴィッヒ様も見れるんだけど、極秘のものとかは魔法がかけてあるために加護なしだと確認すら出来ない。
「そうね……殿下もやってくれるといいんだけどね。それにお式の最終的な打ち合わせもあるし」
「大変ですね……」
「仕方ないわ。それにまた市井にお忍びで行っているのでしょう」
「……はい、そうですね。私が出来るこちらのものはやっておきますので打ち合わせに行ってきてください」
ルードリッヒ様は、さっきとは違う山積みの書類を見て言ってくれたので私は打ち合わせに向かった。
それからも王子代理をしたり、公務に出かけたり、妃教育や王妃様とのお茶会に魔法訓練したり……と忙しく月日は過ぎていった。
そして、学園を卒業した夜。私はゲイン殿下に呼ばれた――それは、結婚式を数日後に控えていた頃だった。
殿下に呼ばれて、やって来たのは殿下の自室だった。
「クララ・ラッフィナート参りました」
「……やっと来たか」
中に入るとソファに偉そうに座るゲイン殿下がいて、そのそばにはいつものように側近たちが控えていた。
第一側近のこの国の三大公爵家のひとつの嫡男であるエシャールさまに、身分が低いながらも第二側近のいつもお仕事の補佐をしてくださるルードヴィッヒさま、王子親衛隊のひとりで騎士爵を持つ伯爵家子息のサフィアスさまだ。
そして、隣には見たことのある女性……いや、少女が。
「クララ・ラッフィナート。俺は君との婚約を破棄する」
「は?」
そう声を出したのは私ではなく、ルードヴィッヒさまだった。
「……殿下、どういうことでしょうか。結婚式までひと月もありません。各国からもたくさんの方が参列されます」
「それなら大丈夫だ。俺は、ミーナと婚姻するからな。君のポジションにミーナが入るんだ。それだけだ」
……ミーナ?
「ごめんなさい、お姉様っ」
それは久しぶりに会う実妹だった。
「俺たちは愛し合ってるんだ」
ふたりは寄り添っていて、仲睦まじく私よりも婚約者同士らしく見える。
私が妃教育や公務、結婚式の準備をしている間に仲を深めていたのだろうか……これは私の苦労報われないんじゃないだろうか。
だけど、あの忙しい時間から解放されるってことでは!?それはとてもいい……!!
「……だから君にはここを出て行ってもらい――」
うん、解放されるならとてもいい。
「殿下。婚約破棄の件、承りました。私、すぐに出て行きます」
「……は? いいのか?」
「えぇ、真実の愛とはなんて素晴らしい。二人を祝福させていただきますわ」
ドレスを摘みお辞儀をすると、私はウキウキ顔で殿下の部屋を出た。
私室に戻ると、私は出ていく準備を始める。
まぁ、荷物は少ないので少しだけだったのですぐに出ていくことができた。
荷物をまとめてすぐ、王都にあるラッフィナート邸に向かった。
王宮に近い貴族街にあるのは、私が殿下の婚約者で優遇されているらしい。そのため、王城からは近いのですぐに到着した。
「おまえには粗相をしてしまったミーナの代わりにカステル公爵領に向かってもらう」
だが、またしても私は追い出され馬車に乗せられてしまった。