溺愛の業火
本性
『その後1』
零れた涙を優しく拭って、縛っていた縄を解きながら鼻歌で、ご機嫌の清水くん。
放心状態で見つめる私に、爽やかな笑顔。
「篠崎は俺の事、好きだよね?」
「……。」
思わず絶句。
そんな私の態度に、彼は解いた縄を指で弄りながら、首を傾げて不思議そうな表情を見せる。
「好きだって、素直に言ってよ。」
素直に言えなくしているのは、清水くんの所為かもしれない。
頭の中は色々な事で一杯になる。主に不安要素。
「やだ。」
今、この小さな部屋で認める訳にはいかない。
何となく、彼の術中にはまっている気がするから。
どこからが彼の計算なのだろうか。いつから流され始めたのかな。
松沢くんもグルなのだろうか。
「篠崎は好きでもない奴と、キス出来るんだ?」
痛いところを突いて来ましたね。
流されたのは事実。
だって、傷ついた姿を見て拒絶とか、しないといけなかったけど出来なかった。
優柔不断な私の態度も、清水くんの失敗に繋がる様な一因だったと言うか。
自分にも原因が少なからずあると、自責もあって反省とか諸々。
「ね、続きがしたいって言ったら、どうする?」
続きって、あの?
『あんな事』の続き?
「篠崎、顔が真っ赤で可愛い。ね、お願い。聞きたいんだ、好きだと言って。」
これは、脅しじゃないのかな?
それなのに、清水くんは悪びれも無く笑顔で迫ってくる。
あぁ、せめて引いてくれたなら、冷静に考える時間もあったかもしれない。
「……好き。だけど、清水くんとは付き合えない。」
一番、自分に正直な言葉を真っ直ぐ伝えた。
「そっか、分かった。ありがとう、篠崎。」
さっぱりとした清水くんの言葉に、心は凍りついたように感じる。
なんて自分勝手なのだろう。
「分かってくれて、嬉しいよ。」
思ってもいない言葉。
笑顔で言ったつもり。
「大丈夫、君の攻略法は見つけたから。じっくり行くね。」
彼は口元だけの笑みで、鋭い視線が突き刺さる。
それに安堵するなんて、私に逃れ道はないのかもしれない…