溺愛の業火

『その後2』


殺伐とした放課後。
今日も黙々と作業を進める事だけに徹する。

机を二つ横に並べ、右隣には松沢くん。
自分の左は窓で、後ろの席の机は近くて狭い。
松沢くんの前には、清水くんが座っている。

机の真ん中には未処理の書類の山。
書類の訂正箇所に印字されたシールを延々と貼付。
そんな細かい作業で時間はかかるし、逃げるのはますます困難。

必死で動揺を悟られないようにしているのに。

「生徒会長殿。最近は、どうなの?」

松沢くんは作業しながら清水くんに話題を振った。

「手探り中だよ。」

何を企んでおられるのか、心臓がもたないのでお手柔らかに願いますよ。
私が居るのを分かっていて、二人は何のお芝居なのかな。
どんどん自分が追い詰められているのだけは分かる。

「手探りねぇ。俺のところには、随分と過激な手回しをしたという情報が入ったけど?」

怖い情報ですね。
どこから仕入れたのかな。どこに手を回したのかも気になるけれど。
知らぬ顔で作業を進めますよ、私は。

「何、俺が知らないとでも思ってるのか?松沢の方が余程……まぁ、そんな事は置いておこう。」

何だか、怖い人達に囲まれてしまったな。

「類友なんだ、余計な詮索は時間の無駄だろ。本題に行こうぜ。」

本題の中身は気になるけれど、私の居ないところでして欲しいかな。
口に出せないけど。

「告白した相手は、俺に自分が『相応しくない』って言うんだよね。俺の事を好きで、キスまで許してくれるのに。」

松沢くんに、何を暴露してくれてるんですか!
嫌な汗が出てくる。

「清水、その原因を追究しているのか?」

「した後だよ。」

思考停止で、作業の手も止まってしまった。
自分に自信のない原因。それを清水くんは知っている。

思わず視線を向けた。
清水くんの視線は、私と合うことはない。

彼は松沢くんと会話しながら、作業を手伝う訳でもないのに、目線は机の上。
思い詰めている様にも見える。

私は苦い初恋を経験し、その後は恋と言うよりも憧れる程度に止めた。
自分なんかを好きになってくれるはずはない。
そうやって線を引いて、逃げてきた。

「過去より俺を見て欲しい。ねぇ、篠崎。君は何度、好きだと伝えれば受け入れてくれるのかな?」

清水くんは、ゆっくり私の方に顔を向け、徐々に私の目を捕らえていく。
目が合って、彼は苦笑する。

痛む胸。泣きそうな自分に嫌気。
口を開いて、声を出そうとするけれど出なかった。

清水くんは私から視線を逸らし、席を立つ。

「清水、どこに行くんだ?」

咄嗟なのか、松沢くんが彼の手首を掴んで引き留める。

「心配するなよ、お前に情報が入る程度だろ?」

流し目で答えて手を振り払い、とても冷静には見えなかった。
私たちは、足早に教室を出て行く彼の後姿を見送る。


「篠崎。この間、準備室に閉じ込められたんだって?」

視線を松沢くんに移すと、彼はまだドアの方を見ていた。
誰から聞いたのかな。

それは、彼が向かった先と関係が……まさか。

「松沢くん。あの、もしかして清水くんは犯人を知っているのかな?」

少しの恐怖と震えが生じる。

私の方に向き、黙ってうなずいた。
嫌な予感がする。

私は席を立ち、座っている松沢くんを見下ろした。
退いて欲しいのに。

「行って、どうするの?」

優しい松沢くんが初めて見せた冷たい視線。
行ってどうするのか、私の応え次第では動かないような雰囲気。

一気に巡る自分の考え。
清水くんが彼女に何を言うのか。もう、言った後?
それとも全く関係なく、居辛くなっただけ?


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