溺愛の業火
『松沢くんの恋2+α』
「で、付き合い始めたのはいいよ。それ、誤魔化されてるだけだから。」
今日も放課後、教室での作業。
清水くんが松沢くんの頬をつねって、口もとだけの笑みで睨んでいる。
ですよね。
出来れば、手を回したとか黒い部分は知りたくないかな。
「痛いって、やめろ。俺のイケメンが下がるだろ!」
憎めないんだけど、松沢くんも黒いよね。
「おっと時間だ。和叶(わかな)、遅くなるようならコイツ使って。」
「後始末が貯まってんだろ、ざまぁ。さっきの仕返しで、送り狼になっても文句は言うなよ!」
あ。
松沢くんのお腹に、清水くんのパンチが決まった。
「げふ。」
清水くんは黒い笑顔で、私に手を振って教室を出て行った。
「もう、どうして彼をからかうのかな?」
「うん?ふふふ……幸せになって欲しいんだよ。歓びは共有する物だろ。」
お腹を押さえながら、良い事を言っているようだけど。
思わず笑ってしまう。
「篠崎は清水を名前で呼ばないのか?」
おっと、避けていた事に直撃ですね。
遠回しに何度か清水くんからも催促があった。
ただ恥ずかしいだけなんだけど。
自分の自信の無さを補う様に、幸せが満ちていく。
両想いなのをクラスが祝福してくれたのも意外だった。
というより、皆が清水くんの気持ちに気付いていたのだという。
応援してくれていたのも私は知らず。
「ところで、あの日は誰に手伝ってもらったの?」
あの時間は部活動の人くらいしか残っていない。
だけど教室に荷物を取りに来た時には作業が終わっていた。
「何の情報と引き換えで教えようか?」
この取引が怖い。
「何が知りたいの?」
「それは、こっちのセリフかな。」
黒いわぁ。
やっぱり本命を呼んだのかな。
この教室に二人で、あの作業を黙々と続けるような相手。
「篠崎、これは俺の独り言だ。長くなるけど気にするな。」
そう言いながら、視線を書類に向けて作業を始める松沢くん。
何を語るのかな。清水くんか相手の事か。
「篠崎が閉じ込められていた準備室で、あの日に何があったのかは知らない方が良いよ。まだね。」
まだ?
どういう意味だろうか。
「清水に聞くなら、身を捧げる覚悟くらいしとけよ。」
それって危険な匂いがするけど、大丈夫な訳?
身を捧げるって、そんな事……まだ。
まだ?そういう意味、なの?
「初恋の男の子も、本当は篠崎を好きだったと思うぜ。」