溺愛の業火
漫画だとよくある話だけど、私に限って。
「篠崎、委員長に選ばれるのは女子の信頼もあるんだぞ。清水の気持ちは、見てれば誰でも分かるほど純粋なんだよ、本当はね。」
純粋なのは知っているけど、少し強引じゃないですかね。
攻めに押されて、突き落された感がありますけど。
そうか、数人でも女子から認めてくれるのは嬉しい。
「松沢くん、私は一颯(いぶき)くんと付き合えて幸せだよ。閉じ込められた時、彼の怒りの感情に戸惑ったけれど。私の心にいる幼い頃の想いに嫉妬してたんだね。そうやって、どうしてなのか理解できれば愛しさが増していく。ねぇ。あなたは、どうしたいの?」
私の問いに作業する手を止め、視線を向けて微笑む。
「俺も純粋なんだ、ある意味ね。」
私が予測していた最悪の状況を、松沢くんは見ているのかな。
私は一颯くんに相応しくないから、他の女の子達から嫉妬されてしまうかもしれないと常に不安だった。
そんな状況で付き合っていれば、彼に似合う子から別れを迫られた時に、応じたかもしれない。
それは今後もないとは言えないけれど。
「護れる自信がないの?」
私の言葉に、少し陰る表情。
「そうだね、護りきる自信がない。あいつみたいに、何でも出来る訳じゃないから。適当に、女の子にも線を引きながら優しくするんだ。」
悲しい目をするんだね。
思わず、私の心も揺らいでしまいそうになる。
「ねぇ、和叶さぁ。母性本能が強いのはいいんだけど、俺以外に優しくするのはどうなのかな?」
いつの間に、隣に立っていたのかな。
気配がなかったのから殺気に満ちて、私の笑顔が引きつってしまう。
「おやぁ?今日は、遅くなるんじゃなかったのかな。」
「女心は、秋の空だっけ?副会長と時間を過ごしたいからって、書記が帰れとうるさくてね。」
あれれ。あの準備室を開けなくて正解だったのかな。
つまり、そういう覚悟って。
急激に体温が上がって、顔が熱い。
「おい、篠崎。そのタイミングで、赤くなるな!」
「松沢、お前……いい加減にしろよ。俺に何されても文句は言わせない!」
結構、本気の清水くんに抵抗も必死な松沢くん。
これは止めないと、私が悪かったのだから。
「一颯くん、一緒に帰ろう!」
私の大きな声は無事に届いて、彼の笑顔を得た。
恋は純粋で、人を弱くも強くもする。
不安と幸せに振り回され、それでもこの想いが続く事を願い。
私の感情よりも、彼から受ける愛情に恋い焦がれていく。
彼の嬉しそうな笑顔につられ、火照る頬に触れたくて手を伸ばす。
自分から抱き寄せて。
彼の嫉妬心に慈しみが芽生え、身を滅ぼすような想いに慣れていく。
底なしの愛情。