溺愛の業火
1押して
「清水くん、これ先生から明日までにって言われたんだけど。」
私は幾つかクロスされて山になった書類を抱えながら、彼に話しかける。
すると全ての書類を受けとり、机に置いてため息。
「あの、放課後が忙しいなら私一人で…」
周りから彼に、生徒会長から次期推薦の話が来ていると聞いた。
忙しいと思っていたし、急な仕事は大変だろうと、遠慮して言ったのに。
彼は私に優しい苦笑を見せる。
「篠崎、前にも言ったけどさ。先生から呼ばれた時は必ず、俺に声をかけて欲しいんだ。」
あぁ、こんな優しさを示されると、誰でも彼を好きになってしまうに違いない。
「これは、職員室の前で捉まってしまったのよ。途中で、手伝うと言ってくれる男子もいたんだけどね。」
「はぁ。」
それは何のため息ですか?
山の書類を指さして説明しているのに、私の力も抜けてしまいますけど。
「篠崎、当然だけど放課後は俺も残るよ。全クラスに書類を配ると聞いていたけど、レジュメか。どこからの指示なんだろうな。」
そう言いながら、午後からの授業で邪魔にならないように小分けし、教室後部の棚に並べて重しを置いて行く。
手際が良い。
放課後、私たちは黙々と作業を進めた。
ざわついていた教室内は人が減るにつれて、静けさを伴っていく。
「篠崎、訊きたい事があるんだけど。」
彼が私に何を尋ねるのだろうか。
「何?」
「好きな奴、いる?」
好きな奴?
いきなりの質問に間をおいて考えるけれど、その意図も自分に該当する相手も思いつかなかった。
「今は居ない。」
下を見たまま作業をしながら安直に答えたけど、深い意味などない。
それなのに。
「今は?前は居たって事?」
どう答えていいのか分からず、作業の手を止めて目を上げた。
思わず息を呑む。