溺愛の業火
2駄目なら
朝の通学路。
「おはよう!」
私の背中を軽く叩いて、元気な笑顔で挨拶をしてくれる松沢くん。
「おはよう。昨日は、私の途中の作業を手伝ってくれたんだよね?ありがとう。」
告白の事を清水くんから、聞いているのだろうか。
「ん?ふふふ。何、訊きたそうな顔してるのかな。」
お礼の会話も無視して、ニヤニヤと私の表情を観察している。
性格悪いな。
「もう、篠崎はマジメちゃんなんだからぁ。心配しなくても、作業なんてほとんど残っていなかったよ。俺は、篠崎が出て行ったすぐに教室に入ったんだけどね?」
机の上の残りの作業も把握できない程、私は慌てていた。
松沢くんが廊下にいたのさえ気づかずに、走って逃げるほど混乱して。
「泣きそうじゃん。大丈夫!あいつに、ちゃんと助言をしておいたから。」
「ありがとう。」
お礼は言ったけれど。助言?
何だか松沢くんが清水くんにしたと聞いて、安心できないのは何故だろうか。
その日、助言が効いたのかは分からないけれど、清水くんはいつもと変わらない接し方だった。
安心しながら、寂しさが生じる自分の都合の良さに落ち込んでしまう。
「篠崎、レジュメのアンケは回収できた?」
そして、普通に接して何事も無く放課後を迎えた。
「ごめん、半分もないかな。…12枚。」
「ありがとう。俺の分と合わせれば全部そろっているよ。提出期限まで間があるけど、今日中に集計を終えておこうか?」
相変わらずの手腕ですね。
でも、この雰囲気は何やら微妙な物を感じますよ。
「あの、ごめんね。今日は用事があるから、明日でも良いかな?」
少しでも時間が経てば、こんな空気もマシになる気がする。
昨日のような全速力では彼に失礼と言うか、空気が悪化しそうだから、慌てずに帰り支度を始める。
「清水くん、また明日ね。バイバイ。」
よし、自然に逃げられた。
そう安心した私の手を、彼は捕らえて引き寄せる。
私は何が起こったのか理解できず、放心状態。
どうやら私はバランスを崩して、彼の腕の中ですか?
「松沢が言ったんだ。昨日の俺は攻め過ぎたって。だから。」